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特別編 Zerufenoa The First(3)

数日後。鼎はいつも通りに来ていた。宇崎は心配してる。

「鼎、大丈夫なのか?」
「…大丈夫だから来たんだろうが」


相変わらず冷淡な言い方をするよな〜。北川はこの日も来ていた。彼はここ1週間くらい毎日のように来ているような…。


「いちかがゼルフェノア黎明期の話を聞きに来るなんて、珍しくないか?」
鼎が切り出した。宇崎が答える。

「あいつは晴斗が来るまでは最年少だったから、知らないことも多いでしょ。
いちかはお前の後輩に当たるわけだし」

「…で、今日は長官がわざわざリモートでゼノク設立当時の話をしたいわけか…」
「そうらしい。鼎、いちかのわがままにちょっとばっかし付き合っておくれよ」

「…いいよ」
鼎の声が優しくなった。鼎もゼノクが出来た経緯を知らない。



司令クラスですら曖昧なのが、この「ゼノク」という巨大研究機関も兼ねた組織の複合型施設だった。
後に完成後にゼノクとはどのような施設なのか、長官の口から司令クラス全員に説明されたが…。

ゼルフェノアの組織直属病院は数あれど、ゼノク隣接の病院は桁違いに大きい大病院。
本部・支部隣接の組織直属病院も大病院だが。



やがて時任も司令室に来て、少ししてから司令室のモニターに長官の姿が映し出される。

「お、皆来ているね。じゃあ早速…ゼノクが出来た当時の話でもしようか?」


相変わらず軽いよな〜、長官はー…。
宇崎はマイペースな蔦沼にたじたじ。



「じゃあ、ゼノクが出来た当時の話を始めるけどさ…。ゼノクが出来るきっかけになった一般市民がいたんだよ。
あれは北川が辞めるちょっと前じゃなかったっけ?あの人が来たの。連れの人と一緒だった」
「連れってか…若いカップルでしたっけ…?確か。強烈に覚えてるよ、あの人は…」

北川は覚えているらしい。



10年前。北川が組織を辞めようかと揺らいでいた頃。


本部にある一般市民が訪ねてきた。一般市民は2人。

1人は20代前半くらいの男性、もう1人は女性なのは体格や背格好・髪型でわかったが顔から首にかけて包帯で覆われているため、わからない。
完全に包帯で顔を覆っていた。目元すらも見えない状態。目元には僅かな隙間があるように見えたが、見えているかもわからないような出で立ち。


「ミイラ女」だ…と北川は感じたが言ってはいけないと察する。


「…あ、あの君たちは何の用で来たんだ?ここ…一般市民は無断で入れないはずだが」

男性が答える。男性は包帯姿の女性の手をずっと握っていた。
「入館許可は事前に貰いました。…あの、彼女を助けては貰えないでしょうか!?」
「彼女って…」

北川は顔から首を包帯で覆われている女性を見る。女性からは見えているらしく軽く会釈した。


「俺達、怪人の襲撃に遭ったんです。俺は無傷でしたが…彼女は人前では顔を見せられない姿になってしまって…」
「…だから包帯姿なのか……。見えにくくないか?視界」


女性は答えた。か細い声だった。
「この姿にはもう慣れましたから…。かろうじて見えていますよ。
外出する時はつばの広い帽子か何かで隠さないとならないですが、仕方ありません…」

男性も続ける。
「病院にも行きました。ですが…このままだと彼女が死ぬかもしれないと宣告されて…!後遺症だと診断されました。怪人由来の後遺症って…」


怪人由来の後遺症!?初めて聞いた…。


「ちょ、ちょっと待ってて。長官呼ぶから。それから話をする場所を変えようか。司令室だと都合が悪い」



「――その2人がゼノクが出来るきっかけだったんですか?長官」
「時任、鋭いな。その時わざわざ本部を訪ねてきた2人がきっかけで『怪人由来の後遺症』を知ることになったんだ」

「その女の人、どうなったんですか…。話聞いてる感じだとかなり重いっすよね…後遺症。顔から首にかけて包帯って…」
「彼らが本部を訪ねてきてから約3ヶ月後に彼女は亡くなったよ。後遺症が重くてね…なかなか回復しなかったんだ」


……え?


「怪人由来の後遺症について調べたが…軽度から重度まであるらしく、当時はそれらの情報収集するので組織は手一杯だった。
もう少し早く気づいていれば、彼女は救えたかもしれなかったんだ…」



その包帯姿の女性の名は御子柴と言った。男性はその彼氏で新島と言ったという。


新島と御子柴は応接室に通された。新島は視界が極度に狭い御子柴をエスコート。

蔦沼は御子柴の姿を見た。


「怪人に襲撃されたのはいつ頃かな」
蔦沼は優しく聞く。

「……だいたい1ヶ月前です」
「新島さんはほとんど無傷だったんだね。御子柴さんは…」
「……見ての通り、重傷ですよ。顔…見ますか?やめた方がいいですよ…。変わり果ててしまったのですから…」


当時の組織直属病院は怪人由来の後遺症治療技術はなかった。
それもあり、怪人由来の後遺症は見過ごされたことになる。御子柴は包帯姿ゆえに奇異な目で見られるのが嫌だったという。


「紗綾を助けてくれよ…!」


新島は切実だ。新島は御子柴の襲撃前の写真を蔦沼と北川に見せる。
清楚系の女性といった感じか?顔は可愛い。


「…私は一生、このままの姿で過ごすことになるんでしょうか…。そんなの…嫌だ…。こんな包帯姿で過ごせって…」

御子柴は両手で顔を覆った。新島は御子柴の肩に手を回す。
「紗綾は病院で重度の後遺症だと診断されました。治す手立てが今のところないって言われて……絶望しています」


蔦沼は考えこむ。
「後遺症治療が急がれるな…。怪人由来はどこにもない。そのための場所を…作ろう」

「紗綾は助かりますか!?」
「今のところはわからない…。何か医師に言われなかったか?彼女について。重度となると余命とか」

「半年持つかわからないと宣告されています。
…私は…生きる希望を無くしました…。この姿になってからは家族とも会ってません。悲しむから」


蔦沼は彼らが帰った後、「怪人由来の後遺症治療」に特化した施設が必要だと強く感じた。

新島と御子柴は帰った後病院に向かったという。御子柴の経過観察らしい。



時任と鼎はこの話を聞き、かなり複雑になっている。


「その御子柴が来なかったら、ゼノクは出来なかったのか…」
鼎も深刻そうに呟く。

「御子柴の後遺症は誰が見ても重度だったからね。
顔から首にかけて包帯で覆われている時点でおかしいと気づくでしょう。それと新島は御子柴を治すために、ずっと病院を探していたと聞いた…。でも見つからなかった」

「ゼノクが出来たのは8年前だと聞いた。新島はそれを知ったのか?」
「知ったみたいで、わざわざ完成したゼノクに来てくれたよ。御子柴の写真を持ってきてね。
彼女の死から約2年だった…」

「え…」
「御子柴さんは後遺症の悪化で亡くなったの…?」


蔦沼は静かに頷いた。

ゼノクが出来たきっかけがあまりにも…。時任は涙目になっている。
鼎も思わず顔を背けた。


犠牲の元に出来た施設がゼノクだったと知り、沈黙する2人。

蔦沼はこんなことを切り出した。
「ゼノクに石碑があるだろう?庭園に。あれはね、慰霊碑なんだ」


確かにゼノクの庭園には石で出来たモニュメントがあった。あれ…慰霊碑だったのか。
ゼノクは怪人由来の後遺症治療をメインとする施設。後遺症の犠牲者もいる。



鼎は蔦沼にあることを聞いてみた。

「加賀屋敷について聞きたいのだが。それにゼノク医療チームとは一体なんなんだ?」
「それを聞くとは紀柳院、踏み込んではいけない領域だよ」


踏み込んではいけない領域?どういうことだ?

鼎は困惑。宇崎と北川も理解出来てない模様。


「そろそろ切り上げようか。紀柳院、身体をもう少し気遣ってあげなさい。
検査結果次第ではまた加賀屋敷の世話になるかもしれないのに…」





特別編 (4)へ続く。


特別編 Zerufenoa The First(2)

――約15年前。少数チームだったファーストチームは徐々に人数を増やし、正式に「特務機関ゼルフェノア」を設立。命名したのは蔦沼だった。

黎明期のゼルフェノアは本部だけだったが、西日本にも拠点が必要だという蔦沼の判断により、ゼルフェノア設立から僅か2年後に京都支部を増設。



「…室長、ゼノクっていつ出来たの?支部が出来た後?」
時任が聞いてる。

「ゼノクは8年前に出来た施設だよ。ゼノクが出来た経緯は、なんか込み入った事情があるとかないとか聞いたような…」


込み入った事情?


「いちか、ゼノクが出来た経緯は長官に聞かないとわからないかもね。
俺達が説明するよりも、長官に直接聞けばいいよ。ゼノクに関しては」
「あれ?ゼルフェノアって最初は司令、北川さんだったんだよね?室長に変わったのはいつ頃…?」


宇崎と北川は複雑な面持ちになる。北川から宇崎に変わった経緯には「あの事件」が絡んでいた。

12年前の幹部クラスの怪人・飛焔(ひえん)による連続放火事件だ。


この事件は隊員達に大きな爪痕を残した。当時の司令の北川と、当時の隊長の陽一もだ。



――10年前。


「北川、辞めるってどういうことだよ!?」
当時は組織の研究員だった宇崎が詰め寄る。

「責任を感じているんだ。犠牲者を出してしまった…。救えなかった。
陽一も辞めるかどうか今、ものすごく悩んでいるみたいなんだよ…」

陽一も!?あの事件現場に行ったのは陽一率いる隊員達だったが…。
指揮をしたのは北川だ。


「宇崎。次期司令にお前を指名する。長官からも許可が降りたよ」
「俺、指揮したことないぞ!?なんで俺を司令に…」

当時の北川は何か意図があったらしい。


「俺は司令辞めても『彼女』の支援は続けるよ」
「彼女って…『都筑悠真』のことですよね!?生きていたんですか!?」
「宇崎、しばらくの間組織で匿うことにしたんだ。彼女は狙われる可能性が高いからね。
彼女は既に名前を変えて生きている。『紀柳院鼎』とね」


紀柳院鼎!?


「紀柳院は『陽明館』にいるよ。仮面生活に慣れてないと聞いたな」
「仮面…?」

「紀柳院は全身火傷を負ったが生還したんだよ。顔は大火傷」
「だから仮面が必要なのか…」



「室長が司令になった経緯って…北川さんがめっちゃ絡んでたんだ…。てか、さっきから出ている『陽一』って誰?」
時任、複雑そう。

「今だから言えるんだよ、これはな。北川は鼎が司令補佐になってからちょいちょいサポートに来てるのは、そういう意味合いもあるの。
『陽一』は晴斗の父親だぞ」


「じゃあ私は戻ります」
「いちか、ゼノクについて知りたくないのか!?」

「別の日にして下さい…」
「じゃあ、後日ね。今度はゼノク設立の話でもするからさ。長官がリモートで話したいって」



時任は複雑そうに休憩所へ戻った。
「陽一」って、暁くんの父親だったんだ…。




特別編 (3)へ続く。


無題


話題:おはようございます。
昨日の拍手5個ありがとうございます。昨夜変な時間帯に自己満小説書いたせいか、眠りが浅かった…。

なんかむっちゃ変な夢見たし…。



本編の補完・補足はこれ(the first)で終わる予定だが、細かいところを補完出来ればいいかな〜と…。
ゼノクが出来た経緯は本編でもスルーだったんで、補完したい…。

特別編2では、なぜに研究員の宇崎が本部司令になったのかを掘り下げたいところ。


特別編 Zerufenoa The First(1)

某日。司令室では宇崎と北川が話している。

「…あれ、紀柳院は今日来てないのか?」
北川が部屋を見渡す。
「彼女は最近発作起こしたりとかして不調でしょ?幻覚系の怪人が見せた蒼い炎がトリガーになったみたいでな。
一応病院に行かせたよ。隣の病院で検査受けてるはず。もしかしたらまた…加賀屋敷の世話になるかもしれないけど」

「宇崎、紀柳院はまた休養させた方がいいのでは?」
「…あ、やっぱり?検査結果次第だろうね。今はまだ保留だよ」



休憩所――


御堂はぼーっとしながらコーヒーブレイク中。彩音達が休憩所にぞろぞろと入ってきた。


「彩音、最近見てないなーと思ったら…どこ行ってたんだよ」
御堂はぶっきらぼうに聞いてる。

「単独任務にちょっとね」
「そこそこ平和になったから、単独任務が増えたのか…」


彩音もコーヒーブレイク中。そこに時任がこんなことを聞いてきた。

「きりゅさん今日、来てないよね…。どうしたんだろう」
時任、心配そう。
「いちか、あいつは隣の病院で検査受けてんぞ。最近明らかに調子悪かっただろ」


確かに最近、きりゅさんは軽い発作を起こしたり、具合悪くなったりしてたな…。
あの時私が応急処置しなかったらかなり危なかったと、後から御堂さんから聞いたけど…。



「ねぇねぇきりやん」
「なんでしょうか、時任さん」
桐谷は温かい紅茶を飲んでまったりしている。
「ゼルフェノアっていつ出来たの?」

「私が入った時には既に組織名は『ゼルフェノア』に名称が変わっていましたから、ざっと20年〜25年くらい前にその雛型が出来ていたんじゃないんですかねぇ」
御堂が割り込む。
「いちか、それに関しては室長や北川に聞いた方がはえーぞ。室長達はその雛型組織のメンバーだったはず」

「ふーん」


雛型組織…。



司令室。


「いちかが1人で来るなんて珍しいな、どうかしたのか?」
宇崎は穏やかに声を掛けてきた。

「前々からずっと気になっていたんすけど…ゼルフェノアっていつ出来たのかのかなーって」
「昔話を聞きに来たのか。いいよ、北川もいるんだしちょっと組織の昔話でもしようか。北川、いいよな?いちかは知らないからねー、ゼルフェノアが出来た経緯」



約20年前。この当時、ゼルフェノアの雛型組織は10人いるかいないかの少数チームで編成されていた。

当時は警察と連携して怪人を撃破していたと記録が残っている。
その対怪人雛型組織の名称は「ファーストチーム」。暫定的に付けられた名称だった。


組織を作ったのは蔦沼。ファーストチームの司令である。

ファーストチームはほとんど、ある大学の卒業生で構成されていた。
蔦沼と宇崎は大学の研究グループの先輩後輩関係にある。年齢は離れているので、直接的な先輩後輩ではないが。


ファーストチームは大学のサークルのような雰囲気だったという。
少数チームということもあり、対怪人組織の雛型にしては和やかだった。


ファーストチームメンバーには蔦沼・宇崎・小田原・北川の他にも晴斗の父親の暁陽一など。
この頃はまだ怪人の出現頻度も低かったことから、ファーストチームは対怪人組織としての下地を作っていくことになる。



「――え、ゼルフェノアの雛型って今よりも人数少なかったの?めちゃくちゃ少なくない?」
時任はポカーンとしている。

「最初は大学のサークルみたいな感じだったんだよ、この組織。蔦沼長官が作ったのは本当だよ。
当時は警察と連携してたんだ。ファーストチームは人数少なかったし、必然的に警察と連携してたわけ」
「け、けいさつと連携…!」

時任は気づいた。
「警視庁に怪人案件専門の部署があるのって…」

「その名残だよ。西園寺達が活動してるだろ?
昔はフルで活動していたみたいだが、今はゼルフェノアが怪人案件全て対応してるから、警察の怪人案件専門部署は縮小されちゃったわけね。でも、鳶旺(えんおう)決戦の時には警察も協力してただろ?大規模案件だったからな〜」



本部隣接・組織直属病院。


鼎は宇崎の勧めで検査を受けていた。彼女も最近の不調は気になっていたらしい。
検査結果が出るのは約2週間後だと聞いた。


やはり、あの時の怪人が見せた幻覚の「蒼い炎」が不調のトリガーになってしまったらしい。
鼎はカウンセリングも受けていた。鼎の担当の辻岡と話している。辻岡は女医。


「蒼い炎がトリガーになったとしか考えられないんだ…」
「生活に支障が出てきているようなら、休養した方がいいかもしれません。
重圧もあるのでしょうけど、無理は禁物ですよ。紀柳院さんはひとりで抱え込みやすい傾向にあるのですから。遠慮しなくてもいいんです。話しやすい仲間がいるでしょう?」


「話しやすい仲間」と聞いて頭に浮かんだのは御堂と彩音だった。
最近はいちかも「もっと私達を頼って」と積極的に言っていた。私が感じている重圧が漏れ出ているのかもしれない。


「あまり…思い詰めないで下さいね。検査結果も気にしているようですが、無理ないですよね…」
「あぁ…」

鼎は診察室を出た。どこか背中が寂しげ。
鼎はとぼとぼと歩いている。あれ以来、なんだか不調が続いている…。



時任は宇崎と北川の昔話を淡々と聞いていた。

「ファーストチームからゼルフェノアに名前が変わったのはいつ頃なんですか?」


「いつ頃だったっけ…北川…」
宇崎、度忘れしたらしい。

「15年くらい前だったような…。俺が司令に就いたの、そこらへんだぞ?蔦沼が長官になったのもその辺だったなぁ」
「…あれ?そうだったっけ……」

「宇崎は研究バカだったから覚えてないんだろう。
あの頃はまだ研究員だったわけだしな」


北川が言うように、当時の宇崎は研究員。まさか後に本部の司令になるなんて予想外だったのである。





特別編 (2)へ続く。


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