――約15年前。少数チームだったファーストチームは徐々に人数を増やし、正式に「特務機関ゼルフェノア」を設立。命名したのは蔦沼だった。

黎明期のゼルフェノアは本部だけだったが、西日本にも拠点が必要だという蔦沼の判断により、ゼルフェノア設立から僅か2年後に京都支部を増設。



「…室長、ゼノクっていつ出来たの?支部が出来た後?」
時任が聞いてる。

「ゼノクは8年前に出来た施設だよ。ゼノクが出来た経緯は、なんか込み入った事情があるとかないとか聞いたような…」


込み入った事情?


「いちか、ゼノクが出来た経緯は長官に聞かないとわからないかもね。
俺達が説明するよりも、長官に直接聞けばいいよ。ゼノクに関しては」
「あれ?ゼルフェノアって最初は司令、北川さんだったんだよね?室長に変わったのはいつ頃…?」


宇崎と北川は複雑な面持ちになる。北川から宇崎に変わった経緯には「あの事件」が絡んでいた。

12年前の幹部クラスの怪人・飛焔(ひえん)による連続放火事件だ。


この事件は隊員達に大きな爪痕を残した。当時の司令の北川と、当時の隊長の陽一もだ。



――10年前。


「北川、辞めるってどういうことだよ!?」
当時は組織の研究員だった宇崎が詰め寄る。

「責任を感じているんだ。犠牲者を出してしまった…。救えなかった。
陽一も辞めるかどうか今、ものすごく悩んでいるみたいなんだよ…」

陽一も!?あの事件現場に行ったのは陽一率いる隊員達だったが…。
指揮をしたのは北川だ。


「宇崎。次期司令にお前を指名する。長官からも許可が降りたよ」
「俺、指揮したことないぞ!?なんで俺を司令に…」

当時の北川は何か意図があったらしい。


「俺は司令辞めても『彼女』の支援は続けるよ」
「彼女って…『都筑悠真』のことですよね!?生きていたんですか!?」
「宇崎、しばらくの間組織で匿うことにしたんだ。彼女は狙われる可能性が高いからね。
彼女は既に名前を変えて生きている。『紀柳院鼎』とね」


紀柳院鼎!?


「紀柳院は『陽明館』にいるよ。仮面生活に慣れてないと聞いたな」
「仮面…?」

「紀柳院は全身火傷を負ったが生還したんだよ。顔は大火傷」
「だから仮面が必要なのか…」



「室長が司令になった経緯って…北川さんがめっちゃ絡んでたんだ…。てか、さっきから出ている『陽一』って誰?」
時任、複雑そう。

「今だから言えるんだよ、これはな。北川は鼎が司令補佐になってからちょいちょいサポートに来てるのは、そういう意味合いもあるの。
『陽一』は晴斗の父親だぞ」


「じゃあ私は戻ります」
「いちか、ゼノクについて知りたくないのか!?」

「別の日にして下さい…」
「じゃあ、後日ね。今度はゼノク設立の話でもするからさ。長官がリモートで話したいって」



時任は複雑そうに休憩所へ戻った。
「陽一」って、暁くんの父親だったんだ…。




特別編 (3)へ続く。