掃いて捨てる
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:その他
人の上に立つこと(テニス/真幸)
人の上に立つ人間と、それらに統べられる人間。
人間をその2つに分けるとすれば自分は間違いなく前者だろうと思う。
「何を考えてる?」
思考を、くだらない思考に浸っていた真田を引き戻したのは幸村の柔らかな声だった。
真田の上に立った男。そして恐らくこれからも立ち続けるだろう男。
「いや」
短い返事を返し、幸村の視線から逃れるように顔をそむける。
そんな真田に幸村は小さくため息をつき、自分より少し高い位置にある真田の額を軽く指で打つ。
「俺といる時に意識をよそへやるなんていい度胸だね?」
「すまん」
「一体なにがお前をそこまで悩ませてる?」
にっこりと浮かべる笑顔は少しばかり不機嫌さがうかがえたが、続けた声音にははっきりと心配の色がにじんでいた。
真田はもう1度いや、と頭を振る。
そんな真田の様子に幸村は今度ははっきりとため息をついた。
「まだ真田は誰にも頼れない?」
「なに?」
「初めて会った時言ってただろ、『俺は上に立つ人間であらねばならない』って。それはつまり、お前は誰にも頼れないってことだ」
「・・・。」
「上に立つの意味を分かってないはずはないんだろ?」
意味など十分に分かっている。
そこまで考えて真田はふと、幸村はどうなのだろうかと思う。
「俺は十分に甘えているよ」
まるで真田の心を呼んだように幸村が言う。
ふわりと笑う表情が嘘でないことを告げていた。
「だから真田ももう少し肩の力を抜けばいい」
「これが俺だ」
「そうだね。でも俺は、真田の支えでありたい」
「幸村?、!」
真剣さと切なさを含んだ声音に真田が幸村の顔を見、そして固まった。
なんだこれは。
先ほどまで浮かべていた笑顔とは全く違う、切なげで、慈愛に満ちた、その中に確かにある強さと甘さ。
目を合わせた瞬間、真田の心臓がドクリと音をたてた。
しばらく見つめ合った後、視線を反らしたのは幸村が先だった。
「真田、部活の部長と副部長を決めるときの暗黙の了解って知ってるか?」
「暗黙の了解?」
「そう、部長はみんなの意見を聞ける人。副部長は部長を止められてなおかつみんなを厳しくまとめられる人」
「それが、どうかしたのか?」
いきなり始まった話に、真田が怪訝な顔をすると幸村は分からないかと聞いた。
「分からないか?この暗黙の了解に俺たちはぴったり当てはまってるんだ」
「……なるほどな」
言われてみればその通りだろう。
しかしいきなりそんな話を始めた幸村の意図が分からない。
「当てはまっているんならいいんじゃないのか?」
「そう、いいんだよ」
そうしてまた甘やかに微笑む。
「だって俺が真田の上に行けるわけだから」
「俺の上に行きたかったのか?」
「行きたかったよ」
真田はますます訳が分からなくなる。
結構な時間を幸村と過ごしてきたが、幸村は人の上に立つことに喜びを感じるような男ではなかったはずだ。
少なくとも、部長という地位にありながらも、驕った態度を取ったことは一度もない。
そんな彼がなぜこんなことを言うのだろうか。
真田の頭にいくつかの疑問ととりとめもない考えがよぎるが、幸村自身の言葉で全てを否定された。
「別に人の上に立ちたい訳じゃない。」
「ならば先ほどの…―」
「真田の上に行きたいんだ」
「…?それは俺をライバル視している、という意味か?」
「んー…」
真田の言葉に幸村は困ったように笑う。
そうじゃないんだけど、と歯切れが悪い。
困ったように目を伏せる姿は、こちらが何も悪くなくとも思わず罪悪感を抱かせる。
真田は仕方なく追及の手を緩めた。
恐らく幸村のことだから強く聞き出せば答えるだろうが、幸村から”言わなくても気付け”と無言のメッセージが発せられている気がした。
「俺自身が、気付かなければならないことか…」
「そうじゃなくて気付いて欲しいんだ。真田は鈍くないから、考え方を変えればすぐに分かるよ」
そう言って幸村はやはりにっこりと笑った。
ただお前に頼られたい
それだけのために部長の地位を欲したと知ったら
お前はどんな反応をするんだろうか
見なれたはずの幸村の笑みに、真田の胸がざわついた。
END
久々に書いた真幸の意味の分からないこと…orz
一番口調が分からなかった…。
>
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