2011-3-26 23:57
サウラーは猫のようだ、と思う。
美しい銀色の髪。
賢くて気品があり、すらりと伸びる手足を弄び、いつも静かに本を読んでいる。
紅茶を飲んでいる姿はとても優雅で美しい。
プライドが高く、あいつのまとう雰囲気はツンと鋭く冷たくて。
そのくせ気まぐれで寂しがりやで甘えん坊で。
何の気無しに気ままに俺に擦り寄ってきては、ころころと甘えてくる。
じゃれるように俺の首に腕を回して、そうかと思えば艶やかに笑む。
それはまるで一匹の猫のようだ。
今だって、ほら。
俺の膝の上に乗っかってこちらをじ、と見つめている。
サウラーのペリドット色の綺麗な瞳が、俺を捕らえて離さない。
「どうした?サウラー」
指通りの良い美しい銀髪を撫でながら、その視線の理由を問う。
その問いにサウラーは目を逸らさず、僅かに身体を起こして答えた。
「さっきから何を考えているの?」
退屈そうなサウラーの声。
その声には若干の不信感と不満と、不安とが含まれているように感じる。
俺は頭を撫でる動作は止めずに、そのままサウラーを見つめる。
「僕と一緒にいるのにボーッとして…」
「すまん…お前のことを考えていた」
「嘘、そんなの」
俺の言ったことを嘘と思ったのか、ふい、とサウラーがつまらなそうにむくれて視線を逸らす。
嘘じゃない。
俺がサウラーに嘘をつく筈がない。
寂しそうに揺らぐ瞳に小さく笑い、サウラーの細くしなやかな身体をそっと抱き寄せる。
「嘘じゃない。本当にお前のことを考えていたんだ」
真っ直ぐにサウラーを見つめてやれば、サウラーも同じく俺を見つめ返してくる。
「…僕の…?」
真っ正面を向くように体勢を変え、サウラーは膝立ちの体勢になる。
「例えばどんなこと…?」
ことんと小首を傾げて俺の顔を覗き込むサウラーの可愛らしい仕草に目が眩みそうになりながらも、素直に思ったことを口にする。
「サウラーは猫みたいだなって思ったんだ」
「猫?」
「あぁ」
不思議そうにするサウラーの細腰を引き寄せながら言葉を続ける。
「気品ある仕草とか、優雅な振る舞いとか、スマートなところとか、雰囲気とか、気まぐれだけど甘えん坊なところとか」
サウラーは少しの間、ぱちぱちと瞬きをして俺を見つめていたが、やがて納得したように相槌を打った。
「ふぅん…猫、ね」
「お前にぴったりだろう?」
「そうだね…君にしては上手いこと言うね」
俺の言ったことを信じてくれたらしいサウラーの表情が、ふ、と和らぐ。
美しいペリドットが柔らかい光を帯びる。
―――あぁ、本当に綺麗な猫だ。
そんなことを思いながらその宝石を見つめていると、サウラーが何かを思い付いたように目を細め、企んだ笑みを浮かべた。
「ふふ…なるほど、確かに」
「…サウラー?」
「ねぇウエスター、こうするともっと猫みたいだと思わない?」
「…え、」
そう言うや否や、サウラーは小さく赤い舌を口から覗かせると、ちろりと俺の首筋を舐め上げた。
「………!!!」
何をされたか分からず数秒遅れてから赤面する俺を、サウラーは楽しそうに、艶やかに笑って見つめる。
そして次の瞬間には俺の身体をソファーに引き倒し、その上にまさしく猫のごとく乗っかってきた。
「ちょっ、サウラー!?」
「せっかくのウエスターからの褒め言葉だし、たくさん猫みたいに振る舞ってあげる…」
焦る俺の言葉に耳を貸さず、うっとりとそんなことを囁く。
そんなサウラーの微笑に思わず見とれてしまう。
サウラーはその隙に身を屈め、俺の顔をちろちろと舐め始めた。
「…ん…っ」
「っ、サ、サウラー、」
積極的なサウラーの態度に早くも心臓が警笛を鳴らす。
このままではまずいと思い身じろごうとするが、サウラーがそれを許さない。
「…ウエスタぁ…、ぅ…ん」
「っ…」
必死に擦り寄ってくるその姿は、まるで飼い主に甘える猫のようで。
どくり、と身体の底から熱くなるのを感じた。
(このままじゃサウラーのペースに巻き込まれてしまう…)
何とか止めさせようとするが、逆に俺がサウラーによって制止されてしまう。
「ん…だめ、…逃がさない」
そう言って俺の首筋に小さく噛み付き、愛おしそうに何度も甘噛みする。
今の俺を支配する、小さな首筋への痛み。
ちゅ、ちゅ、と小さな音を立てて唇と舌を滑らせるサウラーを目で追う。
「ふふ…ウエスターは僕だけのご主人様だよ…」
―――限界だ。
ペろりと舌なめずりをして満足げに、妖艶に笑うサウラーの表情に、俺は自分の中の理性が焼き切れるのが分かった。
「っ、サウラー!」
「!」
サウラーの両肩を乱暴に掴み、がばりと起き上がり抱きしめる。
駄目だ…もう我慢できない。
「ウエスター…?」
サウラーが不思議そうな顔で俺を見ている。
「サウラー…、すまん…」
余裕なさげにそれだけ言う俺を見て、サウラーは悟ったのか、くすりと笑って俺の首に腕を絡めてきた。
「ふふ…いいよ。大切なご主人様の為だもの…」
「サウラー…、」
「だから僕をたくさん、たくさん可愛がって…?」
ね?ご主人様…?
耳元でそんなことを囁いてくる目の前の小悪魔な猫に、一際大きく心臓が高鳴るのを感じ。
俺はその猫をゆっくりとソファーの上に押し倒した。
END
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初の西南。フレプリのDVD見てて、なんだかサウラーってにゃんこみたいだなーと思って書いたもの。西に猫みたいだと言われて猫みたいに振る舞って西を誘惑する南が書きたかったんです。