後何回ふたりでこの短い季節を過ごせるのだろう、と、ふとそう思った。
今日の天気は一部で初雪が降るらしい。そう言えばアイツ初雪を楽しみにしてたなァ よし逢いに行くか、なんて考えてしまう自分の単純な思考にこっそり苦笑い。きっと今頃アイツはそらを見上げて降るか降らないか微妙な初雪を待ってんだろうなァ、俺のすきな笑顔で。あ、ちょ、待って外寒くね?
自然と早足になるのを冷たい気温のせいにして、今日も俺は愛しい彼女に逢いに行く。
冬が寒くって本当によかった
今にも降りそうな曇り空の下、ふたり分の足音ぽつり。
『お前知ってるかィ?今日かぶき町で初雪が観測されるらしいぜィ』
「マジでか!…でも雪は食べられないから嫌いネ、ただ冷たいだけアル」
『これだからガキは嫌だねィ、風情のふの字も知らねェ女に話を振った俺が馬鹿だった』
「テメーもまだガキだろーがコルァ!フゼイ、くらい私にだって分かるヨ!」
『オイ、そー言うのはまず漢字変換出来てから威張ろうぜィ』
俺の隣を歩いていた女が道端に寝転がっていた落ち葉を蹴飛ばす。カサリ と音をたてひらひらと地面に落ちるそれ、あんまりはしゃぐんじゃねーやい今に転ぶぞ、なんて口では言うもののそんな君が愛しくて愛しくて
なァ、何で怒ってんのに楽しそうなんだよ?
君の喜怒哀楽を決めるその理由が一番で俺だといいなァ なんて柄にもねーことを考えてみた。(そんなの絶対コイツに言えねェ)(だって格好悪ィだろィ)
「お前より先にフゼイを味わってやるネ!雪よ降れ〜雪よ降れ〜」
そらに向かって口を尖らせながら呟く。そんな人生上手くいく訳ねーだろが
でも、もし初雪をコイツと一緒に見られることが出来れば俺はいるかどうか分かんねェ神様に感謝するかもしんねーな、多分。
真っ白な出来立ての絨毯の上、ふたりで靴音鳴らしながら歩けたら素敵だね、
『…チャイナァ、』
「あぁ?何だヨ?」
『 、寒くねーかィ?』
「キモ!なんじゃそらヨ、いきなり!」
『キモ!ってなんでィ、失礼な』
「まぁ…寒いっちゃあ寒いアルけど……て、ぅわっ!」
ぐい、と半ば強引に彼女の冷えた手を俺の隊服の右ポケットに突っ込む。その中でぎゅっと小さな掌を握ってやった。
『手ェ冷てーな、そんな格好してるからだろィ』
「ちょ…っ、な!何するアルこの変態っ!!」
『いいから黙ってろィ、ったく…』
なんだか自分のした行動が急に恥ずかしくなってそっぽを向く。隣の女は最初はぎゃあぎゃあ言いながら傘を振り回していたけれどしばらくして無口になって俺もなんか照れ臭くなって沈黙、
ふたつの足音は重なりながら乾いたそらに千切れて消える。
狭い歩幅に合わせて歩くのがまだなんとなくぎこちなく感じたけれど彼女と同じ歩くスピードでおんなじ景色を見れることにちょっぴり幸せなんか感じたりなんだり
普段の散歩でも普通に歩いてるのに気付けば彼女を置いてってるから出来るだけゆっくり歩く。いつしかそれが俺の習慣になってて自分もびっくり、彼女の前だけの約束事
『あ、』
「あ、」
不意に重なった声と声、雪のない道に立ち止まった影と影。瞳を隣の女に移すとカチリと視線が合って同時にニマリ、と笑う。
「…見ろヨ、雪アル!」
『…ホントに降ってきやがったなァ、初雪の野郎』
灰色のそらから白い雪が降る、降る。ジャストタイミングと言うかなんつーかとにかく雲の上にいる神様にありがとう、とこころの中で呟いてみる。
「…おい、バカそーご」
『…何でィ、バカ神楽』
コイツの名前を呼ぶのは久々だった。逆にコイツに名前を呼ばれるのも久々だったからなんだかこころがむず痒くてうずうず、
そんな気を知る訳もなく彼女は俺の大好きな笑顔で笑いながらこう言った。
「…雪積もったら、一緒に雪だるま作るアル!」
それは、近い未来の約束事
俺に向けられた笑顔が可愛くて可愛くて思わず『好きでィ』と言いたくなったことは内緒。
その言葉を隠すようにやっぱお前ガキだなァ、なんて言ってみたけれどその誘いを断れない自分もガキなんだろーなァ、(まあいいや)(ガキでもなんでも一緒にいれるんだったら)
【song by:BUMP OF CHICKEN“スノースマイル”】