はじめまして。
そう笑顔で微笑む新しい妹は俺よりも大人で、美人だった。
「あ…っ、と…」
妹というから俺よりも小さな女の子だと思ってた。だけどその綺麗な微笑みの前に俺は心の準備ができず、ただ体をこわばらせるしかなかった。
顔が赤くなる、言葉が出てこない。
(…かっこわる)
すんなりと言葉がでない自分に自己嫌悪。
俺の隣では双子の姉であるリンがにこやに「はじめまして!鏡音リンだよ!」と俺ができない挨拶をすんなりしている。
リンだってこんなお姉さんが妹だって今初めて知ったはずなのになんでそんな驚きもせずに挨拶できるんだか。
リンの人懐っこい性格が羨ましくも感じる瞬間だ。
まぁ、別に俺が人見知りなわけじゃないけど。
ただやっぱ驚くだろ。
新しい妹がまさかこんな綺麗な人なんて…。
「はじめまして、リン姉さん。
よろしくお願いしますね」
「よろしくねルカちゃん!えへへ、こんな可愛い妹ができてうれしいなぁ!」
(妹って…)
どう考えても彼女のほうが姉だろ…。
姉さんと呼ばれて素直に喜ぶリンに苦笑いが零れれば彼女と目が合った。
その海のような青の目と合うとふわりと溢れる微笑みが目に入る。
「……っ」
だめだ。
彼女の…ルカさんの微笑みに顔が熱くなる。
…いくら俺らがVOCALOIDだからって。
俺らよりあとから制作されたって理由でこんな綺麗な人を妹として迎えるなんて。
「…絶対無理」
「え?」
口にしてたつもりはなかったその言葉が口から出れば彼女は俺をまっすぐみつめた。
少しだけかなしげな微かな微笑み。
「…やっぱり、いきなり新しく来られても困るかしら」
「あっ…!いやっ、そうじゃなくて!」
「あははっ、違うよルカちゃん。レンはルカちゃんが美人だから照れてるんだよ」
「ばッ…リン!!」
ルカさんに変な誤解をされるのも困るけどまさかの図星をついた姉の発言に顔が一気に熱くなる。
それはたしかに事実ではあるけどなにもそんなハッキリ(しかも本人の前で)言わなくてもいいのにっ。
ああ、そういえばリンはそうだった。
いろいろな性格の鏡音リンがいる中、うちのリンは素直すぎるというかなんというか。
いいことも悪いこともその場でストレートに言う。
まぁ、それがいいとこでもあるけど。だからってさすがにちょっと(恥ずかしすぎる…)
そもそもなんでこんなに俺は動揺してんだろ。メイコ姉さんだって綺麗ではあるけどこんなに鼓動がうるさくなったりしない。
なんでこんなに気恥ずかしくなるのか。
俺はいまだに彼女の顔をまともに見れてもいない。リンの一言で余計に彼女から顔を背けてしまっている。ああくそ、ホントはこんなことしたいわけじゃないのに。
そんな俺の思いが通じたのか通じてないのか。
「変なレンー。メーコおねーちゃんとかミクちゃんには可愛いとか綺麗とか平気で言うのに…あっ、好みのタイプだったとか?」
「っリン、お前もう黙って」
「えっ、なんでー!?」
「いいから黙って!!」
いらないことを次々とっ!
でも俺の黙れ発言が気に入らないんだろう。リンはひどいだのバカだのを連発する。
しまいにはルカさんにまでレンがいじめるー!と泣きつく始末。やっぱどう考えても妹はリンだろ。
泣きつくリンを横目にそんなことを呆れ半分に考えてたら儚く柔らかな…というよりは楽しげに笑う彼女の笑顔が目に入った。
「ふふ、二人は仲が良いのね」
クスクスと小さく。だけど楽しげに笑う笑顔。
やっぱり彼女の笑顔はなんか落ち着かない気持ちにさせるけど、
「…リンは一応双子の姉として作られてるんだけど、どっちが上なんだかわかんないんだよ」
さっきより少しだけ落ち着いて。
うるさい鼓動を我慢してそう答えた。
「ひっどーい!わからなくないよ!
ルカちゃん!私ちゃんとお姉ちゃんに見えるよねぇ!」
「え…えっと……私にはまだわからないかな」
「あ、そか。ルカちゃん来たばっかだもんね」
そっかそっか。とルカさんが誤魔化したであろう言葉にリンは納得を見せる。
単純というかなんというか。
我が姉ながら簡単だと思っていれば少しだけルカさんが距離を縮めてくる。
やっぱり慣れないからか。その少しの動作にドキ、と胸は跳ねる。
「なっ、なに…?」
「ふふ、しっかりしてるのはレン兄さんのほうがしっかりしてるかなって」
リン姉さんにはないしょね。
口元に手を当てて微笑む彼女の言葉は耳に入っても頭に届かなかった。
(…み、耳打ちとか…)
距離が縮められただけで鼓動がはねたのに耳打ちなんてされたらほら、俺の鼓動は爆発しそうだ。
レン兄さんと彼女は呼んでたけど…兄さんなんて違和感しか感じない。
【初恋少年…end】
(レン兄さん、顔が赤いようだけど大丈夫?)
(っ大丈夫!大丈夫だから触んないで!お願いします!)
俺はちゃんと兄になれんだろうか。
もう不安しかない。
だってこんなに鼓動がうるさい。