某日。司令室では宇崎と北川が話している。

「…あれ、紀柳院は今日来てないのか?」
北川が部屋を見渡す。
「彼女は最近発作起こしたりとかして不調でしょ?幻覚系の怪人が見せた蒼い炎がトリガーになったみたいでな。
一応病院に行かせたよ。隣の病院で検査受けてるはず。もしかしたらまた…加賀屋敷の世話になるかもしれないけど」

「宇崎、紀柳院はまた休養させた方がいいのでは?」
「…あ、やっぱり?検査結果次第だろうね。今はまだ保留だよ」



休憩所――


御堂はぼーっとしながらコーヒーブレイク中。彩音達が休憩所にぞろぞろと入ってきた。


「彩音、最近見てないなーと思ったら…どこ行ってたんだよ」
御堂はぶっきらぼうに聞いてる。

「単独任務にちょっとね」
「そこそこ平和になったから、単独任務が増えたのか…」


彩音もコーヒーブレイク中。そこに時任がこんなことを聞いてきた。

「きりゅさん今日、来てないよね…。どうしたんだろう」
時任、心配そう。
「いちか、あいつは隣の病院で検査受けてんぞ。最近明らかに調子悪かっただろ」


確かに最近、きりゅさんは軽い発作を起こしたり、具合悪くなったりしてたな…。
あの時私が応急処置しなかったらかなり危なかったと、後から御堂さんから聞いたけど…。



「ねぇねぇきりやん」
「なんでしょうか、時任さん」
桐谷は温かい紅茶を飲んでまったりしている。
「ゼルフェノアっていつ出来たの?」

「私が入った時には既に組織名は『ゼルフェノア』に名称が変わっていましたから、ざっと20年〜25年くらい前にその雛型が出来ていたんじゃないんですかねぇ」
御堂が割り込む。
「いちか、それに関しては室長や北川に聞いた方がはえーぞ。室長達はその雛型組織のメンバーだったはず」

「ふーん」


雛型組織…。



司令室。


「いちかが1人で来るなんて珍しいな、どうかしたのか?」
宇崎は穏やかに声を掛けてきた。

「前々からずっと気になっていたんすけど…ゼルフェノアっていつ出来たのかのかなーって」
「昔話を聞きに来たのか。いいよ、北川もいるんだしちょっと組織の昔話でもしようか。北川、いいよな?いちかは知らないからねー、ゼルフェノアが出来た経緯」



約20年前。この当時、ゼルフェノアの雛型組織は10人いるかいないかの少数チームで編成されていた。

当時は警察と連携して怪人を撃破していたと記録が残っている。
その対怪人雛型組織の名称は「ファーストチーム」。暫定的に付けられた名称だった。


組織を作ったのは蔦沼。ファーストチームの司令である。

ファーストチームはほとんど、ある大学の卒業生で構成されていた。
蔦沼と宇崎は大学の研究グループの先輩後輩関係にある。年齢は離れているので、直接的な先輩後輩ではないが。


ファーストチームは大学のサークルのような雰囲気だったという。
少数チームということもあり、対怪人組織の雛型にしては和やかだった。


ファーストチームメンバーには蔦沼・宇崎・小田原・北川の他にも晴斗の父親の暁陽一など。
この頃はまだ怪人の出現頻度も低かったことから、ファーストチームは対怪人組織としての下地を作っていくことになる。



「――え、ゼルフェノアの雛型って今よりも人数少なかったの?めちゃくちゃ少なくない?」
時任はポカーンとしている。

「最初は大学のサークルみたいな感じだったんだよ、この組織。蔦沼長官が作ったのは本当だよ。
当時は警察と連携してたんだ。ファーストチームは人数少なかったし、必然的に警察と連携してたわけ」
「け、けいさつと連携…!」

時任は気づいた。
「警視庁に怪人案件専門の部署があるのって…」

「その名残だよ。西園寺達が活動してるだろ?
昔はフルで活動していたみたいだが、今はゼルフェノアが怪人案件全て対応してるから、警察の怪人案件専門部署は縮小されちゃったわけね。でも、鳶旺(えんおう)決戦の時には警察も協力してただろ?大規模案件だったからな〜」



本部隣接・組織直属病院。


鼎は宇崎の勧めで検査を受けていた。彼女も最近の不調は気になっていたらしい。
検査結果が出るのは約2週間後だと聞いた。


やはり、あの時の怪人が見せた幻覚の「蒼い炎」が不調のトリガーになってしまったらしい。
鼎はカウンセリングも受けていた。鼎の担当の辻岡と話している。辻岡は女医。


「蒼い炎がトリガーになったとしか考えられないんだ…」
「生活に支障が出てきているようなら、休養した方がいいかもしれません。
重圧もあるのでしょうけど、無理は禁物ですよ。紀柳院さんはひとりで抱え込みやすい傾向にあるのですから。遠慮しなくてもいいんです。話しやすい仲間がいるでしょう?」


「話しやすい仲間」と聞いて頭に浮かんだのは御堂と彩音だった。
最近はいちかも「もっと私達を頼って」と積極的に言っていた。私が感じている重圧が漏れ出ているのかもしれない。


「あまり…思い詰めないで下さいね。検査結果も気にしているようですが、無理ないですよね…」
「あぁ…」

鼎は診察室を出た。どこか背中が寂しげ。
鼎はとぼとぼと歩いている。あれ以来、なんだか不調が続いている…。



時任は宇崎と北川の昔話を淡々と聞いていた。

「ファーストチームからゼルフェノアに名前が変わったのはいつ頃なんですか?」


「いつ頃だったっけ…北川…」
宇崎、度忘れしたらしい。

「15年くらい前だったような…。俺が司令に就いたの、そこらへんだぞ?蔦沼が長官になったのもその辺だったなぁ」
「…あれ?そうだったっけ……」

「宇崎は研究バカだったから覚えてないんだろう。
あの頃はまだ研究員だったわけだしな」


北川が言うように、当時の宇崎は研究員。まさか後に本部の司令になるなんて予想外だったのである。





特別編 (2)へ続く。