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林檎飴の様なものである、但し中身は毒林檎と言うのが正しい

啜り泣く声が聞こえたのだった。

しかし周囲を向いても泣いている者は存在しない、代わりにあったのは見慣れた人影が一つ。

「どうしたんですか」
「お前こそ」
「私は普通ですよ」

可笑しな刀刃さん、と首を傾げてみせる仕草。
再び感覚を研いで耳を澄ませてももう誰の声も聞こえやしない。

俺は何時も通り匝徒の前を一歩前を歩く。

「綺麗ですね」
「?」
「夕日が、」

目線の先を追えば、建物の凹凸に区切られた地平線へ、赤い赤い塊が沈んで逝く所だった。

「好きなんですよ」

こっそりと小さな声で言う。
俺の目は、レンズに遮られた緋を見る瞳が描いているものをちらりとだけ捉えた。

(黒が、混ざっている)

例えるならそれは、憧憬に似ていて。
しかし後ろにあるのは酷くどろどろした感情である。

【自我】が見えるのだ―――


「貴方の瞳みたいでしょ」


悪戯のように笑う頬も赤く。
俺としても予想外の言の葉に驚く。

しかし。

(それだけか?)

本当にそれだけなのか。

いや、《お前だけ》なのか?


とは言え世界の調和を乱す音声はどこにも無い。

俺は彼としては答えたく無いであろう問いを飲み込むと、目先の感覚に酔う事を優先したのだった。









(抱えてるものなんてとてもじゃないけど)

予兆という段階に対する四番部隊隊長の見解

「これは些かだな」
「いいや、悉くだね」

「…」
「…」

「これしきに戦力を裂いてどうする」
「これしきでも油断はできないよ」

「私とお前ではどうにも意見が対立するな」
「仕方ないよ、貴方僕の事嫌いでしょう?」
「それはお前だろう、若造が」
「滅相もない。それに夢見れるうちが一番強いんだよ」
「だが挫折もある」
「ぽっきり折れちゃうのが柔軟性の無い大人だね」

「…このままでは話が逸れてばかりで意見が纏まらん。そこの、どう思う?」

「…わ、私でありますか!私は隊長殿に賛成であります!」

「…私も此奴も隊長なのだが」

「!し、失礼致しました、私は成宮隊長殿に賛成であります!」

「…」
「ほらね、彼女も賛成」
「ほらねというかお前の補佐だろう、お前に気を使わない事があるか」
「そうなのかい?」
「いえ私は、心から成宮隊長殿に共感しております!」
「…もう良い、好きにするがいい。白様には俺から申しておく」
「本当?有難う」
「有難う御座います!」
「…些か癪だがな」



「お疲れ様です隊長殿」
「うん、君もご苦労様。助かったよ」
「いえいえそれ程の事では…!」

「どうしてそこまで全員の配備を?」
「自我というのは出てくるまで実体は分からないし、万が一の事が起きたら大変だからね。穴は拡がる。油断したら――
一瞬で喰われて仕舞うよ」

「成る程…」
「もう喰われるのは御免だからね」
「…隊長殿」
「うん?」

「過去に…何か?」

「…」

「…うん、とても嫌な思い出だね」
「あっ…も、申し訳ありません!!不躾な質問を…!!」
「いいんだよ。目を反らすのは良いことじゃない。正面から乗り越えなくちゃね、今はまだ駄目でもいずれ…必ず」
「隊長殿…私も応援致します!」
「ふふ、有難う。心強いよ」

「君も気を付けるんだよ…」

「悉くね」



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