「これで憐鶴(れんかく)と長官が繋がってるとわかったな」
ゼノク防衛システムハッキングから数日後。御堂は冷静に話してる。
「和希、それよりも異空間には行けそうなのか?市民がいるんだぞ!?」
鼎は聞いてみた。
「鼎達がゼノクに行ってる間に、めちゃめちゃ変なところに空間の裂け目が出現したんだが…。
罠にしか見えなくてよ、保留にしてた」
「保留?」
「室長、モニター回してくれ」
「はいはい」
宇崎はメインモニターにその空間の裂け目が出現した場所を出した。鼎は初めて見る。
「あからさまにしか見えないぞ…この場所…」
宇崎が説明。
「今まで山梨県某村の雑木林しかなかったんだが、こっちは緑地公園の林の中にいきなり現れた。
市民が勝手に立ち入らないようにしてるけどね」
御堂が切り出す。
「…鼎はゼノクで憐鶴と会ったんだろ。何か有力情報なかったのか?憐鶴は首謀者の絶鬼を倒したがってるみたいだけどよ」
「ハッキング騒動でそれどころじゃなかったからな…。ただあいつは絶鬼の目的をなんとなく把握している気がしたな。それで私に協力を仰ごうとしたのかも」
「協力?闇の執行人が表の人間に協力って…」
「憐鶴にも出来ることは限られてるらしいからな。…戦えない私に協力を仰ごうとしている意味がわからないが」
「室長、この空間…誰か行きますか?」
「和希、戻れるかもわからないのに…行く気なのか?様子見してからにしろって」
「それ、俺が行ってもいいですか?」
いきなり湧いてきたのは晴斗だった。
「晴斗…よく考えて行動しろ!異空間に行けば戻れる保証はないんだぞ!!」
鼎が感情を露にしてる。晴斗は根拠のない自信を示した。
「大丈夫、絶対帰ってくるから。俺には恒暁(こうぎょう)もいるから」
「その自信、どこから来るんだ…」
晴斗はゼルフェノア在籍の隊員の中では最年少の高3。若さゆえの根拠のない自信なんだろうか…。
晴斗と馴染み深い鼎は微妙な空気に。
「晴斗、帰って来なかったら許さないからな」
「許さない」って相当だぞ…。
御堂も微妙な空気になる。
「鼎さん、あっち行ったら消えた人達を解放すればいいんでしょ」
「簡単に言うが、それは難しいぞ。異空間は敵からしたら庭みたいなものだからな…。それに通信も遮断される。晴斗の判断に全てが委ねられる、重大任務だぞ」
「鼎、俺が行くのは…」
「和希、隊長が行ったら意味ないだろうが。どっちにせよ、異空間に行ける人間は限られる」
「鼎の言うとおりだ。和希、今回は晴斗に委ねるしかないよ」
「室長まで!?晴斗でいいのかよ!?」
「他、適任者…いるか?」
しばしの沈黙。霧人はバイク隊隊長だから無理だし、ベテランの桐谷さんなしではまとまらない。彩音といちかは正直…頼りないというか。
「晴斗しかいないじゃんよーっ!!」
御堂、「うわー!」と言ったリアクション。
「俺が晴斗を呼んだの、こういうわけね」
「室長、俺…実験台になるわけ?」
「実験台とは失礼な」
都内某所・緑地公園。一般市民の恭平は空間の裂け目を見つける。
…なんだこれ?
裂け目の周囲は立ち入れないようになってたが、恭平は好奇心に負け「立入禁止」のポールを越えてしまう。
「なにこれ…裂け目?」
恭平は興味本位で指を裂け目に近づける。すると裂け目は光り、恭平は吸い込まれてしまった。
気づいたら鬱蒼とした森の中だった。恭平はそこで異様な光景を見る。
森全体に消えた人達が散らばり、眠っていた。恭平は不気味な森に怖じけづく。
な、なんだこれ…!
恭平は逃げようとするも、ここは異空間。逃げ場がない。走れど走れど森ばかり。深い森だった。
異空間の別の場所では絶鬼が様子見してる。
「新たな人間が入ってきたねぇ。逃げようがないのにな…」
「絶鬼様、例のあれはまだやらないのですか?」
「裂鬼、これから面白いことになるから。儀式なんかしなくても『勝手に』発動するかもよ」
その頃の晴斗。晴斗もその空間の裂け目に着いていた。鼎から通信が入る。
「晴斗、入ったら戻れないものだと思った方がいい。いいか、囚われた市民を解放出来ればいいからな。絶鬼を倒す段階はまだ早い。情報が少なすぎる…!」
「わかった。じゃあ行ってくるね」
晴斗は空間の裂け目へと消えた。
一方、ゼノク。司令室が慌ただしくなる。
「本部が動いたね。異空間に暁を行かせたようだ」
「暁を!?あいつで大丈夫なんですか?長官」
西澤、かなり慌てる。
「暁には強力な相棒がいるじゃないか。対怪人用ブレード・恒暁が」
「あの人間化するブレードか…って、実際は大丈夫じゃないでしょうよ」
「だからこっちも異空間にうちの隊員を派遣する」
「憐鶴じゃないんですか?」
「彼女にはあくまでも『絶鬼を倒す』契機を与えるだけ。
憐鶴は重度の後遺症があるせいで、うまく動けない。紀柳院とは違う意味で制限があるからな」
「あれだけ激しい攻撃出来るのに制限あるの?あの人!?」
「顔の包帯が外せないのはその証拠だよ」
「紀柳院は仮面で顔を隠してますが、あれは顔の大火傷の跡を隠すためですよね。『仮面の司令補佐』という呼び名も馴染んでる。
憐鶴はまるっきり違う理由で、包帯で顔を隠しているんですか…」
「紀柳院と同じ怪人由来にはかわりないけど、絶鬼にやられたぶん到底人前には素顔でなんて無理だよ」
「表の『仮面の司令補佐』と裏の包帯の『闇の執行人』って、なんか対照的ですよね…」
「その対照的な2人が協力しないと今回はダメかもわからんね。暁1人が異空間に行っても帰って来れない可能性が高い」
「きょ…協力?それ難しくないですか」
「紀柳院は憐鶴に歩み寄ろうとしているみたいだが…憐鶴はまだ拒絶しているね。
あの数日前のハッキング、あれは2人を近づけるために仕掛けたの」
長官それダメなやつ!
「ゼノクの私物化激しいですよ、長官…。そんなにも紀柳院と憐鶴が重要なんですか?この鬼の件」
「かなり重要。紀柳院は戦えないとは言ってるが、実際は多少なら運動出来るでしょ。戦闘が出来なくなっただけで。厳密にはブレードの発動が使えなくなったというか。
発動はかなりのエネルギーと体力喰うから、今の紀柳院がやったら死んじゃうよ」
今、ナチュラルに死んじゃうって言った?
「それと憐鶴がどう関係してるんですか。あの復讐に取り憑かれた人と紀柳院が…」
「紀柳院もかつては復讐に取り憑かれていたんだよ。組織に入った当初だな。宇崎や駒澤、御堂のおかげで目が覚めたんだ。
憐鶴の目を覚ますには紀柳院がうってつけなわけ」
とてもじゃないが、うまくいくとは思えない…。あの憐鶴だ。
姫島以外には心を閉ざしているとは聞いたが。
「異空間に派遣する隊員って、誰?」
「粂(くめ)と三ノ宮」
人選微妙だけど、大丈夫なんか…。
異空間に着いた晴斗は人間化した恒暁と共に森を進む。
「恒暁なんか見えた?」
「深い森だぞ。消えた人達は全員ここにいるみたいだな。眠っているだろ?
これ、眠らされたんだよ…」
眠らされた?
「とにかく進むぞ。晴斗、これは重大任務だからな」
なぜか恒暁が仕切る感じに。
憐鶴は再び鼎と連絡をすることに。これは長官に促されたため。
「今度はなんだ?」
「…紀柳院さん…その……絶鬼殲滅のために力を貸して貰えないでしょうか」
「今度は協力を仰ごうというのか。直に会ってからでないと納得がいかない。
お前の意図が読めないんだよ…。長官から促されたのか?」
憐鶴、沈黙。
「まぁいい。なんなら今度は憐鶴、お前が本部に来い。
話はそれからだ。姫島も連れてきてもいいぞ。あの時途中になった話の続きも聞きたいからな」