鼎達も異空間へ到着したが、場所は広い古びたトンネルの中だった。
「トンネル?憐鶴(れんかく)さん、これどういうことっすか?」
いちかが憐鶴に聞いてきた。
「本部の地下からここに繋がっているみたいですね。このトンネルは既に異界ですよ」
「お前、やけにこの異界に詳しいけど…一体何者なんだ。異界文字が解読出来たり、本部・支部・ゼノクの異空間ゲートも把握してる。
…憐鶴、お前怪人を殲滅する『闇の執行人』以外にも何かしらあるだろ」
御堂が詰め寄った。6人はとぼとぼとトンネルの中を歩く。張りつめた空気。
「ゼノクの地下で、この異界の文字を解読出来るようになったのは本当です」
憐鶴は手帳を見せた。そこには異界文字とひらがなの五十音対応表が書かれている。解読はかなり難しいのか、手帳はぼろぼろだった。
「それと…」
憐鶴は顔の包帯に手をかける。姫島は憐鶴にやめるように制止するのだが…。
するするほどいていく包帯。鼎といちかは一瞬とはいえ素顔を見ているため、びくびくしている。
やがて憐鶴の顔から首の包帯は全てほどいた。そこには至って普通の少し我が強そうな女性の姿が。
…どういうことだ?あの時見た素顔とは違う…。
いちかも似たような反応をした。
「ど…どど…どういうことなの!?あの時見た素顔と違う…」
「異界では本来の姿に戻るんですよ。どういうわけか。あちらの世界では重度の後遺症がひどくて、人前で素顔なんて到底あり得ませんが。私を襲撃したものの影響でしょうか」
「お前…だから頑なに包帯を外さなかったのか」
鼎は相変わらず冷淡。
「異界では制限がないので快適です。私はここの住人ではないんですけどね」
御堂は感じた。
素顔だけ見ると、憐鶴は闇の執行人には見えないんだよなぁ…。負のオーラはすごいけどよ…。
黒い制服のせいもあるんだろうか。ゼルフェノアにあんなロゴあるの、知らなかったぞ。姫島も黒い制服なあたり、協力者ってことを示してるのか。
長いトンネルを抜けた先には廃村があった。
「あやねえ、この村…誰もいないよ?」
「廃村だよ。昔の集落跡だ」
異界なのに妙にどこか現実世界とリンクしている風景。違うのは人間は誰ひとり住んでいないこと。
「憐鶴、市民を解放出来るヒントはわかるのか?」
「この世界は深い森が大半で、集落は僅かしかないことしかわからないですね…。今回はあくまでも一般市民の解放で来ていますから」
「呑気にしていて大丈夫なのかよ」
「この辺は怪人はいないはずです。むしろ危ないのは先に行った人達かも」
先に行った人達。晴斗のことか!?
一方、晴斗達はというと。なぜか洞窟に辿り着いていた。
「暁、やめときなって!罠だよ罠!」
「そうですよ、目的と違いますって」
粂(くめ)と三ノ宮が必死に止めようとする。晴斗も胡散臭げに思ったのか、入口だけ見て引き返した。
「なんか…怪人と目が合った気がする。中にいたかも」
晴斗の呟きに晴斗一行、全力ダッシュ。洞窟の中から怪人が数体出てきた。
「やばっ、追いかけてくる!」
粂はそう言いながらも冷静に弓矢で敵を射る。弓使いなだけに流鏑馬めいたものも得意。
晴斗と三ノ宮も銃で殲滅していた。
なんとか敵を撒いた晴斗一行。
「つ…疲れた…」
「あんたが余計なことをするからよ」
粂、ちょっとイライラ。
鼎一行は深い森の中へ。そこには眠らされた市民達の姿が。
「ここですね。囚われた人達がいる場所…早く解放しなくては…」
「憐鶴、どうすんの?」
御堂が聞いてきた。
「直に敵が来てもおかしくない…どこかに鍵があるはず……。転送装置みたいなものが」
異界に来てから既に3時間以上晴斗一行、鼎一行は迷っている。
市民解放の手立てもないまま。無事に戻れるかも定かじゃないのに。
本部・司令室。
宇崎はゼノクと連絡していた。
「なんか大変なことになってきたんだが…。あいつら戻れるの?長官。逆に敵が出なくなったのは何かあるのか?」
「紀柳院と泉を信じなさいな」
鼎と憐鶴を信じろと言われても…。
一方の鼎はなんとなく相棒の対怪人用ブレード・鷹稜(たかかど)を抜いてみた。
すると鷹稜に反応が。
「鷹稜が反応してる!」
憐鶴も相棒の対怪人用鉈・九十九(つくも)を取り出した。刀身は布に包まれてるが、強い反応を示してる。
「この先にあるかもしれないですね、行きましょう」
「きりゅさんと憐鶴さんが組むと強力じゃないっすか…」
「私は何もしてないよ。いちか、行くぞ」
「きりゅさん待って〜」
6人は2つの対怪人装備が示した場所へ。
晴斗一行もその光を見た。
「なんかあっち側光ったよね?今」
晴斗は恒暁(こうぎょう)を見る。彼の対怪人用ブレード・恒暁も僅かに反応していた。
「誰かいるのかな…あっち」
「行ってみましょう」
「え?行くの!?」
異界は異様に暗くなるのが早い。気づいたら日が暮れていた。
「暗くなってしまったぞ…戻れんの?俺達…」
御堂から不満が出始める。
鼎一行は森を抜ける寸前、周囲に敵の気配が。それも複数。
「いちか!鼎を頼む!」
「ラジャっす!」
「彩音は俺と共に戦え!」
「了解」
憐鶴は姫島に告げた。
「姫島さん、紀柳院さんをお願いします。彼女は戦えない身体だからね」
「承知しました」
怪人は何体いるだろうか。4体くらいいる。鼎一行は気づいていないが、その中に禍鬼がいた。
禍鬼は鼎の背後からナイフらしきもので刺す。小声で鼎に告げた。
「これで終わりですよ。司令補佐」
「…ぐっ!!」
鼎は突如、苦しそうな声を上げ、膝をついた。いちかは鼎の背中を見る。2回刃物で刺されてる…!
1つは脇腹付近、1つは背中を刺されていた。
「きりゅさん!きりゅさん!!」
いちかは必死に呼び掛ける。彩音は咄嗟に傷口を見る。出血してる…。早く止血しないと鼎が危ない…。
御堂と憐鶴は怪人を殲滅したが、鼎を刺した怪人を逃がしてしまう。
御堂は急いで鼎の元に来た。彼は鼎を抱き抱える。
鼎はなくなりそうな意識の中、こう言った。
「仮面を…外して欲しい…」
「わかった。死ぬなよ!絶対に死ぬんじゃねぇ!!」
御堂はそっと鼎の仮面を外してあげた。素顔の鼎はかなり苦しそう。大火傷の跡が痛々しい。
角度の関係でほとんど素顔は見えないが、呻き声をあげているあたり相当痛いんだろう。
「お前を助けるからな…!」
御堂は鼎の顔に再び仮面を着けてあげた。鼎の意識は朦朧としていた。
御堂は泣きそうだった。なんで鼎がやられないとならないんだよっ!!
彩音はなんとか応急処置で止血をしていた。
「このままだと鼎が危ないよ。…だって鼎を刺したやつ…まだいるんでしょ。一旦戻ろうよ」
「どうやって戻るんだよ…どうやって…」
そこに晴斗一行が合流。晴斗は鼎が刺された姿に衝撃を受ける。
「鼎…さん?」
「晴斗…いたのかよ。どうしたらいい?このままだと鼎のやつ…危ないんだよ。呼び掛けても返事がない。意識が朦朧としてんのか、意識がないのか…」
憐鶴は突如、鉈・九十九を地面に突き刺した。
「ここは森の外です。戻れるかもしれない」
「何言ってんだ…?憐鶴…」
御堂はわけがわからない。
憐鶴は姫島にある注文をした。それは顔から首に包帯を巻いて欲しいということだった。
「元の世界に戻れる場所は限られてます。九十九が反応したのはこの場所でした。
姫島さん、顔のシルエットが綺麗に見えるようにお願いしますよ。急ぎで悪いですが」
晴斗一行は何がなんだかわからない。なんでわざわざ憐鶴が包帯を巻いて貰っているのか、わからないまま進んでいる。
憐鶴の鉈・九十九は剣へと変化した。そして空間に切れ目を入れる。
「早くこちらへ。今は紀柳院さんを助けることが優先です。命に関わりますから…絶対に死なせない」
憐鶴の指示の元、空間の切れ目から次々と晴斗達が出ていく。最後に憐鶴が空間を閉じた。
憐鶴は空間を閉じる寸前、禍鬼の姿を一瞬見る。禍鬼は嘲笑っていた。
こいつが紀柳院さんを刺したのか…!
元の世界になんとか戻れたが、場所は本部のグラウンドだった。
あの森の外が本部のグラウンドと繋がっているんかい!?
御堂は急いで本部隣接の病院へ鼎を運ぶ。お姫様抱っこのように彼女を抱き抱えながら。
助かってくれ…!こいつを失いたくねぇんだよ!!
「鼎!起きろ!返事しろよ!!」
病院に搬送された時には鼎の意識は不明だった。憐鶴は慌ただしい病院内で晴斗と彩音・いちかにこんなことを言う。
「紀柳院さんを刺した怪人の姿を見ました。絶鬼の手下です」
「手下ぁ!?」
「暁くん、声大きいっす」
いちかは冷静。
「最初から彼女を狙っていたのかもしれません。紀柳院司令補佐を。もしかしたら私も狙われているかもしれない…!」
「きりゅさん…助かって欲しいよ…」
病室では御堂が鼎を見ていた。緊急なので仮面は外され、呼吸器を着けられている。
「起きろよ…。頼むから起きてくれよ…」
御堂は祈るような気持ちで鼎の手を握っていた。
なんで鼎が狙われないといけないんだよ…!