某都立高校――
その時間帯、高校は休み時間だった。
「暁、着信来てるぞ」
クラスメイトがツンツンと指差してる。晴斗は電話に出た。
「――あ、もしもし?えっ!?室長、今すぐ本部に来いって無茶ぶりにも程があるよ!?」
「晴斗、こっちは緊急事態なんだ。なんとか言い訳して今すぐ学校抜けてこい!お前の相棒のブレードは感づいてるみたいだぞ?
お前の高校はゼルフェノア隊員に関しては黙認している、公認高校なんだよ」
「はぁ?」
晴斗は窓の外を見た。そこには晴斗の相棒の対怪人用ブレード・恒暁(こうぎょう)が宙に浮いて今か今かと待っていた。
――恒暁!?恒暁が出てくるってよほどだぞ!
てか、うちの高校ゼルフェノア隊員に関しては黙認していたのかよ!
晴斗は電話を切ると、慌てて教室を出ようとする。
「荒井、テキトーに言い訳しといて。俺早退するから!緊急事態なんだよ」
「しゃーないな〜。いってらっしゃい。先生には言っておくから」
そう言うと晴斗は高校を出て自転車を飛ばす。恒暁は空を飛びながら先導していた。
「恒暁早いよっ!」
――早くしないと被害が拡大するんだ。急げ!
恒暁の声が晴斗の脳内に聞こえた。対怪人用装備のごく一部はブレード態でも主(あるじ)とは意思疎通が出来る。
ゼルフェノア本部・演習場。Dr.グレアの攻撃はエスカレートしていく。やはりあの右腕に装着したメカをなんとかしないと。
「君たちは本気出さないんですか?それにしても…なぜ隊長が出てこないのでしょう?御堂隊長と戦いたいのに」
霧人は隙を突き、背後から鎖鎌をぶん投げた。鎖はグレアの右腕にきつく絡まる。
「んなっ!?」
「お前のごたくはもう聞きたくない」
霧人、反撃開始。
晴斗は自転車を飛ばしに飛ばして本部に到着。恒暁は演習場へと向かっていた。
「演習場なの!?」
――演習場に厄介なやつがいる。早いとこ止めないと悲惨なことになるぞ!
「恒暁待ってって!」
――誰が待つか!!早く戦いたいんだよ、こっちはよっ!!
恒暁は少しイライラしてる。久々に戦えるからテンション高いのかな…?
演習場では突然飛んできた日本刀型ブレードの攻撃に、グレアは不意討ちを受けた。
「ぐあっ!」
グレアは痛そうだ。いきなり殴られたのだから。
晴斗はゼイゼイ言いながらも演習場に到着。
「晴斗!こいつを止めてくれ!!」
霧人はギリギリ攻めてはいるが、キツそう。
「こいつって…」
「敵だよ敵。Dr.グレアとかいう科学者だよ」
「ガキ1人が加わったところで変わるかな?」
グレアはまだ余裕を見せる。宇崎は晴斗に通信した。
「晴斗、その科学者は人間だ!だから気絶させる程度にしておけよ。後で警察に引き渡すからな」
「了解!」
「晴斗、そいつの右腕に装着しているメカを壊せ。そのメカからビームやら何やら出ていてなかなか攻撃出来ないんだよっ!」
霧人は鎖鎌を用意しといて良かったと思ったが、グレアの猛攻は止まらない。
「チンケな鎖で私を止められるとでも?」
「霧人さん!!」
霧人はグレアから強烈なパンチを受けた。晴斗は恒暁を手に取ると、発動させた。
メカを壊せばいいんだよな…。気絶させる程度って、どれくらいなんだよ…。
とにかく晴斗は霧人をギリギリ次の攻撃から回避させた。
「霧人さん達早く離れて!!」
「お、おう…」
晴斗は一気にグレアの右腕のメカを破壊。小さな爆発音がした。
グレアはメカを破壊され、へたりこむ。負けた…と。
そこに副隊長の仁科がジリジリ迫る。いつの間にか警察も駆けつけていた。
「Dr.グレア、いや常岡桂一郎。お前と組んでる連中について吐いてもらおうか。西園寺さん、お願いします」
そこにはゼルフェノアではお馴染みの西園寺もいた。
西園寺は知らないうちに警部に昇格。
Dr.グレアこと、常岡桂一郎による本部襲撃は晴斗の乱入で失敗に終わった。
常岡は警察に連行されるオチで。この世界では人間による怪人の開発・生産は罪になる。
これが発端となり、警察も畝黒(うねぐろ)コーポレーションもとい畝黒家に目をつけた。
「イーディス、グレア捕まっちゃったね〜。君はどうするのかな」
「まだ早いわ。鼎と直接対決しないと意味がないのよ…私は」
「失敗したら消すからな。警察に捕まる方がマシか…まぁ考えるんだね。俺は計画進めるから」
八尾はなんとか3日間、鼎になりきる影武者を演じきった。宇崎が労う。
「八尾、お疲れ様。乱入者のおかげでマスコミはぱたりと来なくなったな。
だから本部に張りつくなってんだよ。週刊誌どもがよ…。警察も動いてるし、解析班は躍起になってる。
…そうだ。八尾にその鼎の制服一式と同じものをあげるよ。今後も影武者任務があるという意味でね」
今後も影武者任務あるの!?
「お前の演じた鼎はパッと見わからなかった。俺が仮面の内側に仕込んだボイスチェンジャーのおかげもあるんだろうけど」
「あ…あの…司令補佐はまだ……復帰出来ませんよね…」
八尾はおどおどしている。
「鼎はまだ人目が怖くてね…外出するのも難しいんだ。あれだけバッシング受けてたら精神的におかしくなるだろうと。
仲のいい彩音と梓とは少しずつ会話出来てるからゆっくりだけど、彼女は回復はしてきてるよ。
でもまだパニックがひどくて、外出するのが難しくなっちゃったのがな…。元凶が元凶だから鼎はかなり傷ついている」
「なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまった感が…あるのですが」
「大丈夫だって。八尾も心配性か?
鼎には馴染みの仲間がいるし、外出が難しい今は親友と幼なじみに守られてる。梓は鼎の幼なじみなんだよ。お前にだけ、教えておくね。他の新人隊員は知らない情報だよ」
あの眼鏡のお姉さん、司令補佐の幼なじみだったの!?
だからやけに馴れ馴れしかったんだ。
静岡県某所・畝黒コーポレーション。そこに潜入している隊員がひとり。
彼の名は高槻。高槻はビルメンテナンスの清掃員になりすましている。
高槻は長官専属の諜報員だった。彼は過去にも異空間でスパイ活動をしていた実績がある。
畝黒コーポレーション内部は至って普通。だがこれは表の顔なんだろう。
この企業の従業員は元締めが異形だということを知らずにいる。従業員達は決して悪くはない。
地下研究所があると聞いたが…どこにあるんだ?
ビル内部は意外と複雑で把握しにくい。地下があるのは確かだが、地下研究所は地下何階なのだろうか。
高槻にメールが入った。
『地下研究所、見つかった?』
それは長官からのもの。
『まだ見つかりません。地下は何階にあるのか把握出来なくて』
『慎重に頼むよ』
『了解』
やり取りの後、メッセージは自動的に消去された。高槻は諜報員というだけあって、様々な職業になりすまし潜入調査をしている。
イーディスによる公開処刑から約1ヶ月後――
ほとぼりが冷めたこともあり、鼎は外出を試みるもまだ恐怖に怯えている。
「無理すんな。悠真にはまだ休養が必要だよ」
「梓…私だってずっと引きこもるわけにはいかない…」
「気持ちはわかるけど、あんたが相当無理してんのミエミエだぞ。無理してさらに精神壊れたらどうすんだ。本末転倒、意味ないだろうが…」
口は悪いがめちゃくちゃ心配している。
「彩音、どうかしたか?」
「イーディスの本名突き止めたって、室長からメール来てた」
「やっぱりビジネスネームだったんだな。あの女」
「解析班が洗い出したみたいだよ。警察みたいなことしてる…すごい。
イーディスの本名は『六道樒』というらしい」
「六道…そいつが復讐代行という名の闇サイトを運営してたのか」
「しかも人間と怪人が復讐対象の闇サイトだよ…!相当復讐に取り憑かれてるよ…」
「…イーディスは…そういうやつなんだ。あいつは人を不幸に陥れて嘲笑うやつだよ…」
鼎はまだ公開処刑の尾を引いてるため、もどかしい思いをしている。イーディスと直接接触するのは時間の問題なのはわかっている…。
第7話へ。