晴斗達が本部へ戻ってきてから数日後。ゼルフェノア上層部ではリモート会議が行われていた。


「これで元老院がなぜ暁と紀柳院を狙っているか、はっきりしたね」
こう言ってるのは蔦沼。宇崎と小田原は色々と推測を立てている。

「長官、鼎が狙われた要因って…あの『攻撃無効化』なんですかねぇ?」
「宇崎もそう思うのか。今回のリモート会議には北川もいるから彼に聞いてみなよ」
「北川さん、いるんですか!?」

宇崎、驚きを見せる。
PC画面には北川の姿も追加された。北川はにこやかに「やあ」と言ってる。


「俺の推測だが、あの戦闘で紀柳院は浄化と無効化が確認された。間接的なものでああなると、直接だとかなり能力(ちから)は強いものだろう」

「北川さんが鼎の能力の発現のきっかけを与えたんでしたっけ」
「そうだよ宇崎。彼女は俺のことを慕っているみたいだし、言葉次第では行けるとは思ったんだ」


言葉次第で…。北川さんは鼎にどういう風に声を掛けたんだろう。気になる。


「これからも暁と紀柳院には注視して。暁は超攻撃型の能力・紀柳院は浄化型のようだが…元老院が紀柳院の『無効化』を奪ってしまったらこちらの攻撃は一切、効かなくなる。
元老院の監視は鐡一派がやってくれてるよ」
「鐡一派、味方になるとめちゃくちゃ頼もしいな…」

「異空間に関しては彼らの方が詳しいからね」



本部・休憩所。時任は晴斗達がいないことに気づく。


「あれ〜?暁くん達、今日はいないの〜?」

霧人がめんどくさそうに答えた。
「ゼノクに派遣された晴斗達5人は今日明日、連休だぞ?ゼノクにいた期間長かったし、室長が休暇与えたってさ」

「へぇ〜。確かにゼノクで激しい戦闘あったから休暇は必要っすよ。
それにしても意外なのは鐡一派だよね。味方になってからめちゃめちゃ頼もしいというかさ」
「異空間の監視はあいつら任せだからな〜」



この日、鼎と彩音は出かけていた。彩音は鼎をある場所へと連れていくという。


「彩音、そこは変な場所じゃないよな!?」
鼎、少し不安そう。

「大丈夫だよ。ゼノクにいた時に鼎、西澤室長からあることを聞いてショック受けたって聞いたからさー…。少しでも元気出して欲しくてね」


鼎は入院中、西澤からある宣告を受けていた。
それは顔の大火傷の跡のこと。手術でもしない限り、顔の大火傷の跡は消えないと言われていた。

鼎はショックだろうな…。手術でもしない限り、ずっと仮面生活って言われたようなもんだし…。



やがて2人はある場所へと到着。そこは裏路地にひっそりと佇むレトロな喫茶店だった。

喫茶店?なぜ彩音はここに私を?


2人は喫茶店へと入店。カランとベルの音が鳴る。
店内は広々としていて、内装は老舗という感じ。コーヒーの香りがした。
彩音はどうやらこの店のマスターと数日前に話をつけていたらしく、カウンターに声を掛けていた。


「予約した駒澤です。彼女も一緒ですよ」
カウンターの奥から声だけが聞こえた。若い男性の声だ。

「わざわざ予約しなくてもいいのに。ゼルフェノアの隊員さんがここに来るなんて珍しいよ」


少しすると喫茶店のマスターが姿を現した。鼎はその姿にシンパシーを感じたらしい。
マスターは鼎同様、白いベネチアンマスクを着けていた。仮面の上から眼鏡をかけている。マスターの仮面の目元も鼎の仮面同様、目の保護用レンズで覆われている。

少し…見づらそう。


「今なら貸切状態だから話出来るね。今の時間帯はまぁ…暇なんでね。
君が『仮面の隊員』、紀柳院鼎さんか」
「そ、そうだが…」
鼎はなぜか戸惑いを見せた。

「僕がなぜ仮面姿なのか気になっているみたいだね。これは怪人被害に遭ったんだ。数年前に。
2度と元には戻らないと言われた。だからこの仮面姿なんだ。素顔は見せられない」


鼎、沈黙。


「私も手術でもしない限り、顔の火傷の跡は消えないと言われた。これも怪人被害によるものだ…。
マスターは…私よりもひどいのか?」
「火傷とは違うが…かなりのものだよ。僕は一生、このままだ。生きてるだけいいと思ってる」


マスター、少し話にくそう。気さくな感じの人だが、やはり怪人絡みになると辛いのかな…。


マスターは2人に「メニューから好きなの選んでいいよ」と伝えた。
鼎と彩音はコーヒーをオーダー。

2人はマスターがコーヒーを淹れる姿を見る。仮面姿のせいで湯気でかなり見づらそうだ。


「お待たせ」

マスターは2人にコーヒーを出した。鼎は見逃さなかった。マスターは目の保護用レンズを柔らかい布で拭いてる。
やっぱり…不便そう。


喫茶店の広さからして、スタッフも数人いるらしい。
カウンターの奥からスタッフの1人が出てきた。女性だ。


「マスター、何か手伝いましょうか?いくら仮面慣れでも向き不向きはありますって」
「…そうだね。でもね、コーヒーだけは淹れさせて欲しいんだ」

「マスター…無理しなくてもいいのに…」


女性スタッフはかなり心配そう。どうやらマスターの仮面事情に関しては詳しそうな雰囲気。
女性スタッフは鼎と彩音を見た。

「あ、あの…『ゼルフェノア』の隊員さんですよね!?嘘っ!?き…紀柳院さんまでいる。本当に仮面着けてるんだ…」
女性スタッフの反応からするに、ゼルフェノアは憧れの対象らしい。


「別に驚くほどでもないだろう」
鼎は淡々としながらコーヒーを器用に飲んでる。

「マスターと似たような理由で仮面生活を強いられているからな。私の場合は大火傷だが」
女性スタッフ、鼎のさらっとした発言に軽くショックを受けてる。


「お…大火傷…。仮面の下…そんなにもひどいんですか」
「目もダメージ受けてるからな。必要なんだよ」


マスターは黙ってるが複雑そうに見えた。仮面に隠れているため、顔はわからない。
似たようなもの同士、何かを感じているようだ。


「ゼノクの支援なしでは今の僕はいなかったんだ。ゼルフェノアには感謝してる。
生活に支障はあるが、そこそこやれてはいるからね。気にかけてくれるスタッフもいる。紀柳院さん、少しは参考になれたかな?気に障ったらごめんね」
「別に私は…。いや…そういう道もあるのか…」


鼎は選択肢が広がったように感じていた。
今のままでもいいのではないか?

マスターのような人もいる。彼は仮面姿の自分を自然に受け入れていた。



帰り道。鼎は彩音に心情を吐露。

「怪人被害は深刻なんだな…。一生仮面姿って…そんな人もいたなんて知らなかった」
「鼎、これは氷山の一角に過ぎないよ。私達が出来ることはメギドを撃破し、元老院を倒さないと市民の被害は広がっちゃう」


今の私達に出来ることは…怪人を倒すしかない。





第33話(下)へ続く。