連休2日目。鼎はゼルフェノア寮に引きこもっていた。
今、考えなくてもいいのに…。周りと同じように人前で素顔になりたい願望は少しある。だが…怖いんだ。

怖い。



本部・司令室。
彩音は宇崎にこんな提案をしていた。


「彩音、お前今日休みだろ?なんで来たの」
「鼎のマスクについてなのですが…」


少しして。


「いや〜、鼎の素顔をモデルにしたマスクの制作はしてみるが…あいつまた拒絶するかもしれないだろ?
慣れない素材で嫌がりそうな気がするんだが…。とりあえず作ってみるよ」
「なんかすいません…」

「彩音の気持ちはわかるが、本人は怖いのかもしれないぞ?
あの事件後から約10年、仮面生活をしている人間にいきなり『素顔になれ』っていうのは酷だぞ。おせっかいはほどほどにしておけよ」


正解がわからないまま、進んでる気がする。



御堂も休日にもかかわらず、本部のトレーニングルームにいた。

元老院に対抗するにはまだ強くならなくてはならない…!


そこに晴斗がやってきた。

「御堂さん、鼎さん…ゼノクから戻ってからなんか様子変だよね?」
「西澤に言われたことがショックだったらしいからな…。あいつ、傷ついてるぞ」

「西澤室長が何か言ったんですか?」
「鼎の顔の火傷の跡の件だよ。あいつからしたらかなりデリケートだっていうのに、西澤のやつ…空気読まないで言ったみてーでさ」

「な…何を言ったの…」
晴斗、びくびくしながら聞いてみた。


「あいつの顔の大火傷の跡は手術しない限り、消えないってやつ。下手したら鼎はずっとあのままだ。決めるのは本人だから俺は何も言わねーけどよ」
「それって、一生あのままなの…?」

「かもしれねぇな」


え…なにそれ…。鼎さん、ずっとあのままなの?


「晴斗、別に今すぐ決まったわけじゃねぇからそう落ち込むなよ。気持ちはわかるけどさ」
御堂は晴斗をよしよししてあげてる。

「鼎みたいな怪人被害を受けた人間は他にもいる。意外と仮面姿の人、いるぞ?街中にゼノクスーツの人間がいるようにな」

言われてみればゼノクスーツはそこそこ浸透している。



本部・研究室。鼎用の小部屋。
宇崎は彩音に事件前の鼎の素顔の写真を見せた。


「これが鼎…つまり『都筑悠真』の事件前の写真。素顔はこんな感じだったんだ」
「よくいる女子高生って感じですよね。どうやって現在の素顔をモデルにしたマスク、制作するの?」


宇崎はある場所を示す。そこには鼎のライフマスクが。
ライフマスクだ…。


「そのライフマスクをベースにして作る。素材は皮膚に近づけるが、鼎は嫌がりそうな予感しかしないよ…。いいのか?」
「はい。柔らかいマスクになるんですね」
「そ。素顔に近づけるにはそうするしかないだろう。ベリベリ剥がすタイプになるから負荷が心配だが」

「スパイ映画に出てくるやつだ…」
「それを想像すればいいよ」



鼎はまだこのことを知らない。



そして連休明け。鼎はひとりトレーニングルームでバーチャル怪人と戦っていた。
いくら能力(ちから)があるとはいえ、元が強くならなくては意味がないっ!


時任はハードなトレーニングを重ねる鼎を見て心配していた。

きりゅさん…オーバーワークはダメだってば!


御堂は鼎がいるトレーニングルームにやってきた。

「鼎…何焦ってんだよ。お前体…オーバーワークはまだいかんでしょ」
「御堂…気持ちばかりが早まってしまっている。それに怖いんだ」


怖い?


「私は…本当は人前でも素顔になりたい願望があるのだが…。無理だろうな」
「お前…俺に本音言ったの初めてじゃねぇか?確かに鼎にはキツいかもな…目の保護は必要だろ。鼎は長時間素顔になれないんだ、無理したら良くねぇぞ」

「私はただ…ありきたりな日常を過ごしたかっただけなんだ…」
鼎の声は辛そう。


こいつは…全て奪われたんだよな…。だから余計に「ありきたりな日常」を望んでいるのかもしれない。


御堂は鼎の側へ寄り添う。

「話、聞いてやるからトレーニングは止めにしような」
「…うん」
「まだ本調子じゃないんだろ?鼎…またひとりで抱えているっぽいから悩み事聞いてやる」

「御堂…ありがとう」


時任はトレーニングルームを出る2人を見送った。

きりゅさん…複雑そうだった…。ありきたりな日常を望んでいるんだ…。きりゅさんは…。



異空間では元老院が淡々と計画を進めている。

絲庵(しあん)は忙しそうだ。
「計画進めろ進めろ言うけど、鳶旺(えんおう)様もやればいいのに」


まぁいい。新たな戦闘員が完成すれば…ゼルフェノアと鐡一派を負かすことが出来る。
計画は穏便に進めなければ。



水面下ではゼルフェノアと元老院がそれぞれ動いている。
ゼルフェノアは北川に密命を出している。これがどう影響するのか…。