異空間では元老院がメギド戦闘員の強化に成功していた。見るからに今までのものとは姿形が違う。
戦闘員とは言ってるが、見た目は中級メギドにかなり近い。

「長、これで鐡一派とゼルフェノアを叩きのめせます。強化に成功しました」
「絲庵(しあん)、よくやった」

鳶旺(えんおう)、上機嫌。



本部・研究室では鼎用の素顔に近いマスクが完成していた。


「彩音、出来たには出来たが…鼎にとっての正解がわからないから、試着は慎重に行うぞ」
「はい」
彩音、緊張している。

「研究室に時任も呼んでくれ。もし、鼎が拒絶した時…あいつは何するかわからないからな。4年前の改良型の仮面試着時、鼎は激しい拒絶反応起こして暴れかけただろ…。
彩音の説得でなんとか着けては貰えたが、今回は鼎に決めさせるからあいつが拒絶したらすぐ外す」


こうして鼎と時任が研究室に呼ばれる形に。鼎は見慣れないマスクに戸惑いを見せた。


「これは一体?」
鼎が呟く。

宇崎が説明する。
「鼎の素顔をベースにしたマスクだよ。これを装着すればそのまま食事も出来る。素材は柔らかいから慣れるかどうかはわからないけどな。とりあえず、試着『だけ』してみるか?」

試着ならと鼎は承諾した。


時任はかなり緊張していた。なぜなら鼎が仮面を外した姿を1度も見たことがない。
宇崎と彩音は鼎の素顔を知っているので、鼎が仮面を外す様子を見ている。時任はずっと顔を逸らしてた。


やがて仮面は外され、素顔が露になる。彩音と宇崎はてきぱきと鼎の顔にマスクを装着させている。
時任は宇崎に言われるがまま、鼎の体を優しく押さえていた。

「きりゅさん…少しだけ我慢して下さい」
「わかっている」

なんとなく鼎の声が嫌そうに聞こえた。マスクの感触が嫌なのかな…。
今までのものとは全然違うから。


柔らかい素材のマスクをなんとか鼎に装着させ終え、宇崎は手鏡を持ってきた。

「素顔ベースだとこうなるんだけど…どうだ?」
宇崎は手鏡を鼎に見せ、慎重に声を掛ける。鼎は言葉を失った。

素顔ベースなのはわかるが…これは自分であって、自分じゃない。今まで白い仮面姿で過ごしていたせいか、違和感が凄かった。


「これは…私じゃない…」

鼎はなんとか声を出し、マスクを剥がそうとするが…鼎は黒手袋を履いているため苦戦中。

「彩音、鼎のマスクを今すぐ外せ!拒絶反応起こしてる!」
彩音はなんとか鼎のマスクを剥がしていた。相手は暴れかけてるため、うまくいかない。

時任は必死に鼎を押さえながらなだめる。
「きりゅさん…お願いだから落ち着いて…。落ち着いてよ…」

時任はなぜか泣きそうになっている。見ていられなかった。


なんとかマスクを剥がし、宇崎は鼎に普段通りの白い仮面を手早く着けてあげた。
鼎はようやく落ち着いたが…泣いていた。

「あれは私じゃない…。私じゃないんだ…。すまない…しばらく1人にさせてくれ…」


鼎はそう言うと研究室を出てどこかへと姿を消した。



彩音達は「やってしまった」という状況。ああなると鼎はしばらく誰とも口を利かなくなる。
研究室に残された3人は複雑だった。時任は思わず声を漏らす。


「室長、きりゅさん過去に何かあったの…?あの拒絶反応、尋常じゃなかった…。見ていられなかったよ…。私、少し泣いちゃった…辛くて」
「鼎は4年前、今の仮面になるタイミングでの試着時にも激しい拒絶反応をしたんだ。相当嫌がっていた…。暴れかけたんだ。
彩音の説得でなんとか応じたんだけどな…」

「私達、後で謝らないとならないね。鼎のこと…わかったふりしてた」
「あやねえ…」

場が気まずい。



本部・某部屋。この部屋はほとんど使われていないため、鼎は1人になりたい時に来ることがある。


鼎は机に突っ伏して泣いていた。
彩音達は私のことを思ってやってくれたはずなのに…。ダメだった。あの姿が自分じゃない気がして。仮面姿でいる期間が長いのも関係しているのだろうか…。

人前で素顔…無理してなる必要性なんてあるのか?あの喫茶店のマスターだってそうだ。やむを得ず素顔になれない人もいる。
私は無理しているのかもしれない…。



本部・休憩所。あの元気な時任がえらい落ち込んでいた。

「あやねえ、私…きりゅさんがマスク試着していた時、兄貴とダブって見えてしまったんです」
「…いちかのお兄さんって、ゼノクにいるんだよね…」

「ゼノクスーツ姿でしばらく素顔は見てないです…。かれこれ2年くらいは兄貴の素顔…見てない。
兄貴も初め、ゼノクスーツものすごく嫌がってたのを思い出してしまって」


「それでいちか、泣きそうになっていたんだね」

「きりゅさん…複雑なんだろうな。あたし、数日前にたまたま聞いたんす。
きりゅさんは『ありきたりな日常』を望んでいることを知って。でもああいう形じゃないと思って」
「こればかりは本人じゃないとわからないよ…。私達も正解がわからないままやってきてるから…。
鼎相手は難しいからね。いちかも聞いたでしょう、鼎がなんで元老院に狙われているのか」


時任はびくびくしながら答えた。

「きりゅさん…本当は『都筑悠真』さんなんだよね?色々あって、名前を変えたというの…最近知りました。
私はきりゅさんを『紀柳院鼎』さんとしてこれからも接していきます。正体知った時は衝撃受けたけど…黙っておくよ。しぶやんも複雑そうだった」


いちかと霧人も鼎の正体、最近知ったのか…。あの戦闘後だから知らざるを得ないというか…仕方ないのか?
2人はそのままにしてくれるというから安心した。桐谷さんはその前から鼎の正体を知ってたみたいだが、素顔は知らない。

この3人は鼎の正体を知ってるけど、素顔を知らないことになる。


「あやねえ、私…きりゅさんにはいつも通りにするよ。仲間だもん。
何者であってもきりゅさんはきりゅさんだから」

「いちか、優しいんだね」



本部・司令室。宇崎は鼎に悪いことをしたと深く反省していた。
あいつ…4年前以上にひどい拒絶反応を示してた。嫌な思いをさせてしまった…。うまくマスクを外せずに苦戦している鼎は見ていて辛かった。あいつ…許さないかもしれない。


そこに鐡がどかっと入ってきた。相変わらずガラが悪い。

「おい司令、元老院に動きありだ。館で何かしてやがるぞあいつら」
「嫌な予感しかしないな…」



鼎は早めに切り上げて寮へと戻っていた。
ふと、あの喫茶店が浮かんだ。また行ってみようか…。

あのマスターに会いたい。名前すらも聞いてなかった。
鼎は1人、あの喫茶店へと向かっていた。制服姿のままで。





第34話(下)へ続く。