路地裏にその喫茶店はあった。鼎、2回目の来店。なぜかこの店に行きたくなった。

平日の午後とあって、店内はガラガラ。マスターが「いらっしゃい」と声を掛けたと同時に鼎に気づく。


「君…この間のゼルフェノアの隊員さんじゃないか。制服姿初めて見た」
「ちょっと1人になりたくて…」


鼎はカウンター席に座る。そしてホットコーヒーをオーダー。

この喫茶店の仮面のマスター、名は藤代ということがわかった。年代は自分と同じくらいだろうか。声からするに若い男性。
どうしても…藤代の仮面の上に眼鏡というのが気になっていた。見づらそうで。眼鏡をかけてるあたり、落ち着いた感じなんだろうな。


前回藤代と話をしていた女性スタッフは弥刀(みと)だという。今回も弥刀は藤代と話をしていた。

「マスター、私休憩入りますね〜」
「いいよ。ゆっくり入ってね」


鼎はホットコーヒーを仮面をずらして器用に飲みながら、藤代とポツポツ話をしていた。


「藤代さんは…自分がわからなくなる時ってあるか?私は…仮面姿に慣れたせいで素顔になることが怖くなってしまった…。
仮面は身体の一部だから」

「そう思うなら今のままでもいいと思いますよ。僕も迷ったよ…怪人被害を受けてから、実は手術を何回か受けていて…なんとか今の状態になれたけど、人前では仮面は必要で。
僕はこの姿を受け入れるまでかかってる。今でこそ弥刀達スタッフや、家族が気にかけているからいいんだ」

「家族…か」


鼎、複雑そう。鼎は家族を失ったのもあるが。
藤代には奥さんがいて、幼稚園児の子供もいるという。子供はパパの姿を素直に受け入れてると聞いた。


「僕も仮面は身体の一部だからね。素顔は子供にはとてもじゃないが見せられないよ」

「少しだけ楽になりました」
鼎の声が明るくなる。
「この店、気に入ったのかな?紀柳院さん。コーヒー美味しそうに飲んでたから」


その時、外で激しい音が。鼎は端末を見る。怪人出現の知らせだった。現場は喫茶店からほど近い。

鼎は突如、バタバタし始める。
「君、どうしたの!?」


藤代は聞いたが鼎は聞こえているのか、いないのか、レジにお札を置いた。

「おつりは要りません。怪人が近くに出たんだ!だから店の外に出るなと伝えておけ!!建物の中の方が安全なんだ」
「わ…わかった」


鼎はそう言うと店を急いで出た。弥刀が店の奥から出てきた。
「何かあったんですか?マスター。…マスター?」

弥刀は藤代を見た。手がガタガタと震えてる。
「怪人が近くに出たらしい…」
「マスター、私達がいますから落ち着いて。さっきの隊員さん、なんて」
「建物の中にいろと言っていた。建物の中は比較的安全だって…でも…!」

藤代は数年前のことがフラッシュバックしていた。



鼎は路地裏から大通りに出た。そこには見慣れない戦闘員が少数いる。
ビルの屋上には絲庵(しあん)が。絲庵は戦闘員に指示を出す。

「破壊するのです」
強化戦闘員は人々を襲撃し始めた。絲庵はある程度様子を見ると姿を消した。
鼎は単独、強化戦闘員相手に戦っている。ブレードを抜刀し肉弾戦を交えながらも戦闘員と戦うが…強い。


今まで戦った戦闘員とはわけが違う。


「なんなんだこれは…!」

鼎は苦戦中。少しして、晴斗達も到着。晴斗は超攻撃的な発動をいきなり展開するが戦闘員の強さが格段に上がっていることに気づく。

鐡の戦闘員強化態よりも強い…。


御堂は確実に銃撃するも、跳ね返された。
「なにっ!?」

元老院製の強化戦闘員は容赦ない攻撃を繰り返す。御堂はあっけなく突き飛ばされた。
「これで戦闘員だと…?強すぎる…」

御堂は痛みに悶えてる。鼎はこの状況に緊迫していた。脳裏に過ったのはあの店。鼎はなぜか路地裏へ走る。

「鼎さんどうしたの!?」
晴斗は交戦しながら叫ぶ。
「戦闘員の数が足りない…まさか路地裏か!?」
鼎は嫌な予感がした。



喫茶店ではマスターがそっと窓から外を見ている。弥刀は藤代に促した。

「マスター、いけないって!隠れなきゃならないですよっ!早く店の奥に!」
「今…怪人が歩いていた……。明らかに人間を探してる…」

怪人は一瞬、藤代を見た気がした。刹那、窓ガラスが割れる音が。
藤代は目の前に怪人の姿を見る。彼は怯えていた。

鼎はとっさに強烈な飛び蹴りを戦闘員1体に喰らわせる。怪人は一瞬、怯んだ。


「早く逃げろ!!お前が死んだら大切なもの…全てなくなってしまうだろうが!!」


藤代は鼎の言葉に我に返る。僕が死んでしまったら家族にも会えずに終わってしまう…。
弥刀は藤代を誘導した。

「隊員さん、思いっきり暴れて下さい。とにかく怪人を倒してくれればいいんです」
「わかった」

鼎はブレードに思いを込めた。ブレードは共鳴し、眩い光を出す。



一方の晴斗達は眩い光を見た。

「あの光…鼎じゃねぇか!?」
御堂は思わず声に出す。
「鼎さん!?」


晴斗は周囲の強化戦闘員の変化に気づいた。戦闘員が弱体化しているように見える。
浄化されたのか!?

晴斗達は一気に攻撃を仕掛ける。超攻撃的発動で一気に4体撃破。
やっぱり弱体化されている…。あの光のおかげなのか!?


鼎は喫茶店に乱入してきた怪人と戦っている。浄化と攻撃無効化で敵は弱ってきているようだ。
鼎は喫茶店を壊したくない一心で怪人を外に出す。


「せっかく見つけた大切な場所なのに…ぶち壊すな」

鼎は静かに怒っていた。それに呼応するかのように、ブレードはさらに共鳴。
強化戦闘員相手に鼎は一気に畳み掛けた。とどめはブレードを突き刺した。

鼎は戦闘時間ギリギリだったため撃破後、その場に倒れ込む。
喫茶店から藤代と弥刀が出てきて鼎を介抱する。

「隊員さん、しっかりして下さい!」
「紀柳院さん…まさかそんなわけ…」


少しして、鼎は気がついた。鼎は気を失っただけだった。
鼎は2人によって介抱されていたと知る。

「私を助けてくれたのか…?」
「あぁ。店めちゃくちゃにされたけど、君が一生懸命守ってくれたから」


晴斗達は鼎の姿をようやく見つける。鼎は喫茶店のマスターと話をしていた。
御堂は仮面のマスターを見逃さなかった。

あの人…藤代!?藤代生きていたのかよ!?仮面着けてはいるがあの佇まいと眼鏡でわかる。あれは「明らかに」藤代だ。


御堂は信じられないような反応を見せた。
藤代も御堂に気づいたらしい。


「君は…御堂」
「仮面姿だけどあんたは藤代だよな!?お前…生きていたのかよ!?知らなかったぞ」

「色々とあってね。生きてることを伝えてなかった…。僕は今はこんな有り様だ。
3年前…怪人被害で死にかけた。君はなんとか僕を助けようとしていたね」


「その仮面の下…どうなってんだよ…」
御堂は言葉が少しおかしくなっていた。

「見たいのか?やめておいた方がいいですよ。手術を何度かしてようやくこの状態だからね。
僕の素顔は家族の前でも見せないようにしてるから。子供にトラウマを植えつけるわけにはいかないだろ?」


鼎は御堂と藤代の会話についていけなかった。
御堂は藤代と何か関係してるのか?3年前…私は隊員として慣れ始めた頃だが、御堂に一体何があったんだ?

私の知らない御堂を知ることになろうとは…。
3年前…何があったのかはわからないが、藤代が怪人襲撃で死にかけたことだけはわかった。


御堂の言い方から察するに、藤代は友人とかなんだろうか…。



御堂自身はなんとか自分を落ち着かせているらしかった。

藤代が生きていた!?変わり果てた姿だが、でもあの声・話し方・仕草は藤代そのもの…。なんで生存していることを彼は隠していたんだろう…。


御堂はもやもやしながらも、本部へ戻る組織車両へと乗っていた。
どこか御堂は上の空。

車内がなんだか気まずい。あの御堂さんが黙っているのも珍しいような…。