元老院が仕掛けた強化戦闘員戦から約1週間後。御堂達は数人あの路地裏の喫茶店にいた。店は貸し切りにしてる。
店内の客は全員、ゼルフェノア隊員だ。御堂に馴染みのある隊員しかいない。鼎や晴斗もいる。


「よ、よぉ。藤代…。店、再建したんだな。早いな」

御堂、どこか藤代にはぎこちない。

藤代はこう答えた。
「被害が少なかったからね。紀柳院さんが守ってくれたおかげで、怪人にめちゃめちゃにされたわりには大したことなかったよ」
「鼎も来てるぞ。ほら」


御堂は方向を示した。鼎は彩音と共にボックス席にいる。そこだけ女子会みたいになっていた。
スタッフの弥刀(みと)も和気あいあいとしてる。


「御堂、わざわざ貸し切りにしたってことは何かしら話があって来たんだろ」
藤代は感づいている。

「藤代…お前あの時、死んだんじゃなかったのか!?」

「あの状況だとそう思われてもおかしくないよね。あの時、僕は瀕死の重傷だったから」
「瀕死の重傷!?よ…よく生きてたな…」

藤代は少し語気を強めた。
「ゼノクの医療技術で僕は命をとりとめたようなものだから…。ゼルフェノアには感謝してる。ゼノクのおかげで助かったから」

御堂、黙ってコーヒー飲んでる。藤代の淹れたコーヒー、美味しいな。


「ゼノクに1年いたから御堂がそんなにも気になるなら、ゼノクに聞いてみればいい。履歴は残っている」
「お前、何回か手術したって聞いたけどその病院がゼノクなのか」

「…そうだよ」



店は貸し切りだが、そこに藤代の奥さんと女の子が入ってきた。
晴斗達はその方向を見た。

あの人達がマスターの奥さんと子供!?女の子…幼稚園児だって聞いたけど。あ、そうか今日は幼稚園ないのか。


女の子はパパ(藤代)が好きらしく、カウンターへと向かっていく。

「パパ〜、だっこして〜」
藤代の奥さんが女の子に優しく諭してる。
「パパはお仕事中だよ?」
「深雪(みゆき)、今日は大丈夫だよ。店は貸し切りだし、お客さんは全員ゼルフェノアの隊員さんだから」

「ゼルフェノアの隊員がなんでまたここに?」
「僕の友人が話があってわざわざ貸し切りにしたんだよ。岬(みさき)〜パパのところへおいで」

藤代の娘さんは可愛い盛りの女の子。確かに仮面姿の藤代を見ても全然気にしてない。
御堂は思わず岬に聞いた。


「みさきちゃんはパパ、怖くないの?」
「パパはおかおにけがしてるの。こわくないよ。やさしいんだよ。みんなこわいっていうけど、パパはおめんがないといけないからみさきがまもるの」

御堂は一生懸命話す子供に弱かった。そんなこと言われたら…。


御堂はてきとーに口実をつけて店を出た。御堂は複雑そう。
子供があんなん喋ってたら、痛々しいというか。藤代…お前…。


藤代の奥さんと女の子も店を出た。御堂は怪しまれないように藤代親子の会話を聞いた。

「かいじんたおすたいいんさん、いっぱいいたね。パパのおともだちもいるの?」
「いるよ」
「ママ、パパのおかおのけが、なおるといいね」


この言葉に深雪は泣きそうになっていた。パパはもう、顔の怪我…治らないんだよ…。
だから仮面を着けている。やむを得ず。岬にはまだ難しいだろうな…。

御堂も複雑だった。藤代が怪人により、瀕死の重傷を負ったことは本当だったようだ。


喫茶店では鼎と彩音・晴斗がまだ女子会っぽいことしてる。いつの間にか弥刀と打ち解けていた。

「弥刀は藤代が御堂の友人だと知ってたのか?」
「知らなかったですよ。高校時代の友人だって知ったの…つい最近ですし」


藤代親子が去った後、藤代はどこか寂しそう。


「マスター、コーヒーおかわり入りました〜」

弥刀がオーダーを伝えてる。藤代はコーヒーを淹れていた。鼎は藤代を見る。やっぱり…不便そうだ。
仮面で視界が狭いのと、眼鏡の兼ね合いで見づらいんだろうな…。



本部・司令室。
宇崎は蔦沼・西澤とリモート中。

「鼎のやつ、本領発揮して驚いてますよ」
「あの光、浄化だけでなく弱体化させる能力(ちから)もあったのか…。そりゃあ狙われるわけだ」

西澤、妙に納得してる。


「長官。御堂の友人の藤代についてですが…元々彼はゼルフェノア候補生だったって聞きましたよ。何があったんですか。
今は喫茶店のマスターしてるんだっけ。3年前…瀕死の重傷負ってますよね。御堂は死んだと思い込んでたみたいですが」
「あぁ、あれね。藤代はさぁ、適性検査で向いてなかったの。
まさか3年前にああなるなんて誰も予想出来ないからね。顔の負傷は重傷だから大変だったよ。ゼノクに転院させて正解だったよ」



御堂、ゼノクに確かめたいことがあり連絡してみる。藤代はゼノクにいたみてーだが…。


出たのは南だった。

「藤代凌(しのぐ)について聞きたいのか?御堂、彼のゼノクにいた履歴を見てみるよ。…御堂は藤代の…」

「高校時代の友人です。気の知れたやつでした。
あの状況で生きてるなんてまだ信じられなくて…だから確かめたくて。南さん、お願いします」

「わかったよ。彼らしいな。『ゼノクへ聞いてみろ』というのはね」


御堂はかなり複雑そうにしてる。あいつの仮面の下…どうなっているのかも気になるが、あいつの話から察するに重傷…。
ゼノクへ転院したってことはよほどだろ…。



少しして。南から折り返し連絡が。

「御堂、藤代について履歴を発見したよ。彼は3年前、怪人襲撃に遭い瀕死の重傷を負っていたんだ。顔の負傷が酷かったようだ。
ゼノクに転院したのは一昨年。そこから1年、ゼノクにいましたよ」
「あいつ…マジでゼノクにいたのか…。顔の負傷が酷かったって…」

御堂、ショックを隠しきれない。南は続ける。


「うまく言えないが、怪人にズタズタにされたらしくてな。顔の再建手術を数回、している。
御堂は彼に会ったんだろ?あの仮面はそういう意味だ。藤代はもう2度と元には戻らない。人前に出れる限界があれだからね」


人前に出れる限界が…あれ?嘘だろ…?


「御堂…大丈夫か!?」
「あ…あぁ」

堅物の南ですら御堂を気にしているようだった。



「御堂さん、戻って来ないね。どこ行ってんだろ」
晴斗はボソッと呟く。喫茶店には鼎達3人しかいない。

「あの御堂が取り乱すなんて…珍しいよ」
鼎も呟く。藤代はなんだか申し訳なさそうに言った。


「僕のせいかもしれません。御堂とは友人同士だったんです。御堂がゼルフェノアに入ると決まった時は嬉しかったですよ」
「2人は友人同士だったのか…」

「3年前のこと…紀柳院さんは知らないと御堂が言ってました。あの時紀柳院さんは地方任務だったからって」


地方任務…。なんかあったな…。


「3年前…御堂は強敵相手に戦ってました。かなり強かったみたいで御堂も負傷してました。
あまり覚えてないですが…御堂は僕を庇って、負傷して。気づいたら僕は死にかけてたらしくて」
「それで色々あって今の姿になったのか…。娘さんはまだ小さいからわからないだろうに。パパが仮面の理由」
「いや…わかっているみたいだよ。この仮面は『おめん』と言ってるし、僕が顔を怪我してることもわかってる」

「そうなのか…」



鐡一派は宇崎にある提案を出していた。

「お前らがあの強化戦闘員を完膚なきに倒すって、本気で言ってんのか!?」
「たまには俺らにも見せ場をくれよな、司令」





第35話(下)へ続く。