鐡決戦当日――


鐡はわざわざ本部に出向き、晴斗を呼び出した。晴斗の相棒の対怪人用ブレード・恒暁(こうぎょう)は元のブレードの姿。

「ここで戦うのは好きじゃねぇ。場所を変えんぞ」
鐡がそう切り出すと、指をパチンと鳴らした。すると晴斗と鐡の2人は採石場に瞬間移動された。



「ここなら好きなように暴れられるだろ?暁晴斗くん」
「ああそうだな」
晴斗はこれまで以上にないくらい、真剣な表情。

「じゃ、始めますか」


鐡は刀身が紫色の刀を出現させ、いきなり切りかかる。晴斗は咄嗟に避け、こちらも攻撃体勢に。

「身のこなしがずいぶんと素早くなったな。でもまだ序盤だぜ」
鐡は楽しそうに晴斗と刃を交えてる。



約3週間前――
晴斗にゼノクにいる御堂から連絡が入る。


「晴斗、よく聞け」
「御堂さんどうしたの?」

「鼎の手術は成功した。お前ずーっと気になっていただろうが。
お前はお前がやれることをしな。鐡との決着控えてんだろ?鼎の心配はすんな。
あいつはもう戦えない身体になっちまったが、室長が鼎の居場所を作るから安心しろ。…ま、ゼルフェノア自体があいつの居場所なんだけどな…」


「鼎さん…良かった…」
晴斗は安堵の声を出す。
「鐡との決着、きっちりつけてこい」


通話が切れた。鼎さんのことはずっと引っ掛かっていた。
鳶旺(えんおう)との決戦後、ゼノク隣接の組織直属病院に鼎さんが搬送されてから、御堂さんと彩音さんから連絡が全然入らなくなっていた。俺はもやもやと不安に押し潰されそうになっていた。

室長からある程度、情報は入っていたから鼎さんがどうなっているかはそこそこ聞いてはいたが…。手術レベルだったなんて…。



晴斗は持ち前の身体能力でひたすら避けるが、鐡が煽ってくる。

「逃げてんじゃねぇよ」
晴斗には考えがあった。それは持久戦に持ち込むことだった。序盤はブレードを発動させず、肉弾戦メインにして戦う。
これは晴斗の相棒、恒暁が「お前には持久戦向いてるからこれで行けば?」…とアドバイスされたのもある。晴斗はそれを参考にした。


晴斗は肉弾戦メインで鐡と殴り合い、蹴り飛ばす。鐡はニヤニヤしながらこちらも殴り返す。

「腕上がってんじゃんか」
鐡は褒めてるのか?晴斗は一気に鐡を突き飛ばす。彼は恒暁との稽古により、肉弾戦の実力も向上。


しばらくの間、2人は肉弾戦メインでただひたすら戦ってる状況。



ゼノク隣接・組織直属病院。

鼎は組織の端末でその様子をライブ映像で見ていた。側には彩音と御堂、人間の姿の鷹稜(たかかど)もいる。


「この戦い、わからなくなってきたな…」

鼎は晴斗の身を案じてる。まだ序盤だが、相手が相手だし、読めない展開なので見ている方もハラハラしている。


「晴斗のやつ、いつの間にあんなに腕上げたんだ?キレキレじゃないか」

御堂は晴斗の肉弾戦のキレに着目してる。彩音も自分の端末で戦闘を見ているが、無言。
鷹稜は鼎の端末を覗きこみながら呟いた。

「恒暁が稽古つけたのでしょうか」
「鷹稜、少しだけ黙っててくれないか?」

「あ…申し訳ないです」
鷹稜は鼎に言われてしゅんとしてる。



本部でも司令室でパブリックビューイング状態に。


「こら!ここはスポーツバーじゃないんだぞ!司令室から出ろーっ!!」
宇崎はメインモニターで戦闘を見ている時任達に言ったが、ほとんど効き目なし。

「室長なんなんすか。こういう時だけ司令官ズラっすか。メインモニターの独り占めはさせないよ!」


…俺、司令官なんだけど…。本部司令だよ?


「時任…なんでわかったの…」
「誰だってわかるってば。顔に出てるもの」



ゼノク・司令室。蔦沼・西澤・南もメインモニターでこの戦いを見守っている。


「長官。スペアの戦闘兼用義手、ようやく2つとも来ましたが、最大出力にして両方パーにするのは勘弁して下さいよ〜?あれ、捨て身すぎますから危険だっつーのに」

西澤がジリジリと攻める。


「もう無茶はしないから、しないって」


「暁、持久戦に持ち込む気かな…。さっきからずっと肉弾戦メインだ」
蔦沼の秘書兼SP、世話役の南は気づいたらしい。

「相手が曲者だから様子見兼ねてるんだろうね。暁は1vs1(サシ)で何回か鐡と戦ってはいるけど、鐡の威力は謎だからな〜」
「長官、呑気すぎますよ」

西澤に蔦沼はさらっと注意された。



晴斗は再びブレードを手にし、叩きつけるように斬り込むが鐡がそれを阻止→2人はつばぜり合いに。
晴斗は隙を突いて一気に行くが、鐡に見抜かれる。


「本気出せよ、暁。手加減なしだぜ?俺も本気出すからな」
鐡は怪人態に変貌。ゼルフェノアは初めて鐡怪人態を目撃することに。それは鳶旺怪人態とは違う意味での威圧感が。


「怖じけつくなよな」
怪人態でも鐡のあの話し方はそのまんま。

晴斗はブレードをようやく発動→猛ダッシュで助走をつけ跳躍→斬り込むが相手は怪人態。手応えがない。

鐡は一気に殴り、突き飛ばし、晴斗を一方的に攻撃してる。「手加減なし」なので殺す勢いで攻撃してる。


晴斗はギリギリ攻撃を交わしていた。体力の消耗が激しい。つーか、鐡めちゃくちゃ強い!!
人間態でもあの強さなだけに、怪人態ともなると…。


晴斗はかなり不利な状況に追い込まれていた。

発動がほとんど効かないのは鳶旺戦と似ているが、鐡は鳶旺とは違った意味で怖いというか…。



「なんか暁くん、詰んでない?発動効いてないし…どうすんだろ」

時任の指摘に宇崎はモニター越しの晴斗を見た。鐡怪人態も桁違いに強いのか…。
この戦いは2人の戦いだ。誰も干渉出来ない。2人は戦闘前にあるやり取りをしていた。


・これは2人の戦い。他人の干渉一切禁止
・勝負に制限時間はない
・片方が自ら負けを認めたら終了、倒されても負けとなる
・手加減一切なし


「晴斗なら勝機はありそうだけどな…」
「まだわからないっすよ。勝負はこれからだよ」

時任がなんか予想屋みたいになってきた…。お前、そんなキャラだっけ?



晴斗vs鐡はだんだん楽しくなってきたのか、本気で戦っている。激しい攻撃の応酬。
ブレードの発動が切れても晴斗は気にせずに斬り合い、攻撃を畳み掛けている。


鐡も少なからずダメージを受け始めていた。


「スタミナ切れか?暁…」

晴斗はふっと笑った。
「まだ戦えるよ!」
「そう来ないとね〜。あんたらしくないわ」


2人の攻撃の応酬はさらに激化。晴斗は息を切らしながらもひたすら攻撃を繰り返す。



鼎の病室。鼎は祈るような気持ちでライブ映像を見ていた。

「晴斗…死ぬなよ…!生きて帰ってこい…」
鼎も死にかけただけに、気が気じゃないようだ。鐡も明らかにラスボスクラス。

今まで鐡は人間態だったからわからなかったが、怪人態も相当強い。人間態であのスペックなのに、怪人態ともなると…。


御堂は鼎を気遣う。


「鼎、お前…体調大丈夫か?術後なんだぞ?とにかくこの戦いは見守るしかないな。
そうだ。室長が鼎のために居場所を作ったって」
「居場所?」

「戦えなくても、俺達と一緒にいるような…そんな居場所をわざわざ作ったみたいだぞ。だから俺達とはいつも通りだってよ。基本的にな」
「本当なのか?」

「気になるなら室長に確認してみなよ。今はやめておけ、退院後な。とにかく鼎は回復させるのが先だろ」

「和希…」


鼎は和希を見た。心なしか、御堂は優しくなっていた。
御堂は鼎の仮面の頬にそっと触れる。


「仮面触られるの、嫌か?」

「和希は嫌じゃないよ。視界が狭いから最初わからなかったが…。頬に触れたのか」
「お前…仮面は身体の一部だろ。鼎、いつかまた素顔を見せてくれよ。嫌なら無理しなくてもいい」

「和希…この感情がなんなのかわからないんだ…」
「悪い。混乱させてしまった」


御堂は鼎の仮面から手にそっと触れた。鼎は火傷の跡を隠すため、黒い薄手の手袋を履いているが…。

「和希…気持ちはわかるが触りすぎだぞ」
「気を悪くしたか…悪い。悪気はないんだ」


鼎と御堂は互いに気持ちが通じているらしい。御堂は不器用すぎるだけで。



晴斗は再びブレードを発動。
「どりゃあああああ!!」

ブレードの威力がさっきよりも上がっている。晴斗の消耗は激しいが、2人はプライドを賭けて戦っている。

「なんだ、まだ行けるじゃねぇか。さすがは天然タフ野郎」
鐡は褒めてるのか、煽っているのか。どっちだ。



「いっけー!!暁行けーっ!!」


本部司令室はパブリックビューイング状態に。スポーツじゃないんだぞ…これ…。命懸けの戦いなんだが、なんなんだ。この盛り上がりは…。

相手が相手なだけに、お祭り状態になってしまってる。


「お前ら、スポーツ感覚で戦闘観戦すんな!!」
「室長だって楽しんでる癖に〜」

時任は洞察力が高いのか、すぐに見抜いてしまう。



鐡も本気なので容赦ない攻撃を繰り出す。晴斗は地面に叩きつけられた。
鐡はジリジリと迫る。


「そろそろ負けを認めろよ」

「やだ」
「やっぱりしぶといな〜。暁は。粘り強いというかよ」

「ごちゃごちゃうっさいな!!」
晴斗にスイッチが入ったっぽい。ブレードもシンクロしたのか、光の強さが増している。


晴斗は対怪人用ブレード・恒暁の声を聞いた気がした。「行け」「躊躇うな」と。





第54話(下)へ続く。