「晴斗が鐡と交戦してからどれくらい経った!?」
そう聞いたのは御堂。鼎は時間を見る。

「2時間以上は戦ってるぞ…」
「2時間!?おいおい体力オバケか晴斗はー…。持久戦ってか、泥試合化してきたな」


ずっと無言だった彩音がようやく口を開く。

「まさか相討ちになって、共倒れになんてならないよね」
「そんなこと言うなって。こればかりはどうなんのかわかんないからなー。あーっ!!」


人間の姿の鼎の相棒・対怪人用ブレードの鷹稜(たかかど)も呟いた。

「そろそろ決着つくかもしれません。恒暁(こうぎょう)の波動が変わりました」
「画面越しでもわかるのか、お前…」

鼎はちらっと鷹稜を見た。鷹稜もこの死闘の行方を見守る。



晴斗vs鐡は泥試合の様相を呈しているが、どちらも退かず拮抗。晴斗はせめて鐡を人間態にしたいと思っていた。
鐡は倒せなくてもいい、怪人態から人間態にさえ出来れば――


晴斗はぜいぜい言いながらも、再び鐡とつばぜり合いを繰り広げる。

「…なかなかやるじゃないか……」
鐡もかなり消耗している模様。2人は一気に決めることにしたらしい。それは相討ちだった。


鐡は怪人態から人間態へと戻る。そしてあの刀を構えた。
晴斗も構える。眼光が鋭い。2人はそれぞれ駆け出した。



「ちょ!?相討ちする気!?暁くん正気!?」
時任がハラハラしてる。
「あいつら決着つける気だ…」

宇崎もライブ映像を食い入るように見ている。



晴斗と鐡、2人は同時に斬りこんだ。もはや2人の残りの体力は僅かな状態。
一瞬、何が起きたかわからなかった。

数秒後、鐡が血を流し倒れた。それから僅か数秒後、晴斗も倒れる。
晴斗も流血していたが、鐡よりは傷は浅いようにも見える。


共倒れになったのか?


晴斗はなんとか立ち上がる。鐡も立ち上がろうとするが、傷は深いようだ。

「俺の負けだ、暁。楽しかったぜ」
鐡は満足げに笑っている。


採石場には鐡の部下の杞亜羅(きあら)もいた。
「鐡様!逝かないで下さい!」
「傷は見かけほど大したことないぞ。杞亜羅、肩貸せ。異空間に帰るぞ」

「帰る?」
「お前、異空間の立て直しをしたいんだろ。考えが変わった、異空間に戻る。立て直すぞ。
元老院に荒らされたんだ、元に戻さないとならねぇだろうが…」

杞亜羅は泣きそう。
「鐡様ぁ…」
「暁、しばらくお前らとは休戦だ。双方被害が尋常じゃないだろうに。
いつになるかわからないが…また来るよ。何、お忍びで人間界に来るかもしれないが、何もしない」

鐡は少しだけ言い方が柔らかくなっている。



鐡は再び指を鳴らした。晴斗は本部のグラウンドに転送されていた。

本部に戻ってきたんだ。


恒暁は人間の姿になったが、傷だらけ。
「恒暁!おい…ぼろぼろじゃないかよ…」
「お前のために頑張りすぎたわ。ブレードの姿に戻るから、俺の修理よろしく。晴斗、お前も手当て受けろよ。お前こそぼろぼろじゃないか…」

「恒暁…」
恒暁はそう言うと、元のブレードの姿に戻った。





数ヶ月後――


特務機関ゼルフェノアは、これまでの戦闘による被害の立て直しを進めることに。
鐡の休戦宣言により、平和は訪れたが怪人の残党がまだ出ている。

隊員達は残党を倒しつつ、再建を進めているような感じだ。



この数ヶ月間でゼルフェノア隊員にも変化が。


「いちか、ほら行くよ!ゼノクにいるお兄さんに会いに行くんでしょ?」

彩音と時任はいちかの兄・眞(まこと)に会いに行っていた。眞はしばらくゼノクスーツ姿だったが、回復してきたため久しぶりに素顔で妹のいちかと再会。


「兄貴ーっ!会いたかったよー!」
「いちか、泣くなよ。戦いがめちゃくちゃ大変だったって聞いてさ…」
「あたしは兄貴の顔が見れただけで嬉しいよー。兄貴の素顔見たの、3年ぶり?それ以上になるのか…」

「いちか、一時的だけどゼノクから出られる許可が出たよ。治療はまだ終わってないんだけどね。甘えてもいいんだよ?」
「兄貴、その日は一緒にどこかへ出かけようよ。ねぇ、いいでしょ?」

いちかは嬉しそう。



ゼノク・司令室。西澤達3人は通常通り。

「西澤、長官がまた何か作ってますよ…」
「南、ほっときなさいよ。最近になってようやく蔦沼長官の扱い方がわかってきたわ…」

「私達、ずっと振り回されてますからねー…。ははは…」
南が引き笑いしてる。長官に振り回される苦労人2人の受難はまだ続く?



鳶旺(えんおう)決戦で負傷した、北川元司令はあれから退院。たまに暁家に顔を出すように。


「陽一、久しぶり」
「北川さんじゃないですか。怪我治ったのか?」

「まだ完治してないが…。君の息子、かなり成長したな〜。精神的にさ。
紀柳院のこと、気になっているのかい。彼女は俺が見守っているから安心しなって。あと…パートナーが出来たみたいだから安泰じゃないか?」


パートナー?


「御堂和希だよ。紀柳院の先輩だ。なんかいい感じになってたみたいでねー。御堂は意外と恋にはシャイみたいだし、2人の恋を密かに応援してるのさ」

「北川、ストーカーだけはやめとけよ」



異空間では鐡が杞亜羅と共に立て直してる。

「杞亜羅、なんでお前そんなにも俺に忠誠心あんの?。狭山みたいに自由にやればいいのに」
「忠誠というかなんというか…。なんでしょうかね…」

杞亜羅はまだこの感情をわかってない。



本部でも変化が。解析班の朝倉と矢神の凸凹コンビはしれっとカップルに。見た感じ、至って通常通りなのでなんら変わってないのだが。



御堂は分隊長クラスから隊長クラスへと昇格。そんな御堂は司令室へと呼ばれていた。


「御堂、鼎に会いたいか?」
「会いたいよ。あいつはどこにいる?」

「鼎〜、出てきてもいいよ〜」
宇崎の掛け声に鼎はおずおずと出てきた。


ゼルフェノアの白い詰襟の制服には変わりないが、鼎の制服は若干デザインが変わっていた。


鼎の制服のデザイン…ちょっと変わった!?印象変わりすぎだろ!?


「和希、鼎は今日から俺の『司令補佐』として動いてもらうことにしたんだ。
今まで本部指揮系統は俺ひとりだったし。鼎は組織にいたいから、居場所を作ったわけ」
「司令補佐って、階級高くない!?」

御堂、かなりの驚きのリアクション。


「階級?気にすんな。本部では『初』の女性司令補佐だ。便宜上の役職だから、鼎の階級は隊員となんら変わらないぞ。
彼女は戦えなくなったが、観察力と洞察力は優れているからね。だから補佐にしたの。司令室ならいつでも隊員に会えるだろう?和希くん」

宇崎はニヤニヤしてる。


「からかっているのか、室長」
「お前ら、付き合っているんだろ?前々から知ってたけどさ」


御堂、周りに知られて頭が真っ白になる。鼎は冷静に言った。


「別に隠してはいないだろうに。組織公認みたいなもんだろうが」

「そうそう。ゼルフェノアはどういうわけか、カップルが出来やすいんだよね〜。吊り橋効果ってやつ?
和希と鼎はそうじゃないみたいだが。和希は鼎が入った当初からずっと見ていたからねぇ〜」



――某日。とあるカフェのテラス席。晴斗は高校ライフを再開し、テラス席で勉強中。遅れたぶん、勉強を頑張っている。

学校をずっと(戦闘で)サボっていたから頑張らないと…。遅れを取り戻さないとなー…。
鼎さん達、元気かなぁ…。


晴斗は進路に悩んでいた。

高校卒業後、ゼルフェノアに正式に入るか大学に進むかで。


そんな中、通りに白いゼルフェノアの制服がちらほらと見えた。


――ゼルフェノア?ん?あれってまさか…。

晴斗は思わずその白い制服の中に見慣れないデザインの制服を見る。その制服の主は白いベネチアンマスクの女性。


「鼎さん!?鼎さんだよね!?」
晴斗は思わず声を掛けた。


声を掛けられた鼎は立ち止まる。

「晴斗…久しぶりだな」
鼎の声が優しい。こんなにも優しかったっけ?数ヶ月ぶりだからかなー…。


「その制服どうしたの?…てか、御堂さんと彩音さんも久しぶりだね!」

「晴斗、勉強頑張ってるか〜?」
御堂はだるそう。
「頑張ってるよ。まだ進路は決めてないけど…ゼルフェノアに正式に入りたいかもしれない…」


「暁くん!あたしのこと、忘れてないかい?」
時任がひょこっと出てきた。
「時任さん、なんか変わったね…」

晴斗はたじたじ。よく見ると桐谷もしれっといるではないか。



鼎は市民から注目されているようだった。

「鼎さんの周りに人だかりが…。御堂さん、どういうこと?」
「晴斗、お前知らないのか?鼎は本部『初』の女性司令補佐になったんだよ。だから俺らがついてるわけ。野次馬対策な。
鼎は戦えない身体だし、何かあったら困るだろうが」

「初の女性司令補佐な上に仮面の隊員が昇格したから、なんか世間から注目されてるみたいでさ〜。
きりゅさん、人多いところ苦手だからあたしらがガードしてんの」
時任が説明してる。


「なんでわざわざ街中に来たのさ…」
晴斗が何気なく呟いた。
「気分転換だが?」
鼎はピシャリと呟いた。


「人慣れしないと今後困るだろう?私も克服しようとしてるんだよ。
仮面の理由を知って欲しくて、顔の大火傷の跡のことは世間に公表したけどな」


公表って…相当勇気いるんじゃないの!?
事の発端となった、あの事件のことは触れていないみたいだが…。


「鼎、早く行こう。司令補佐と言っても、実際は隊員となんら変わらないんだからね。
室長も制服デザインそのままにしとけばいいのにさ…」

彩音まで呟いてる。



晴斗は鼎一行を見送った。


鼎さん、大変そうだ。俺も早く力になりたい。
力になって…何したいのかな。今は平和だけど怪人の残党がいるのは知ってる。


ゼルフェノアは人知れず、まだ戦っている。残党がなくなるその日まで。





―完―