これはゼルフェノア本部占拠事件後のこと。事件から約1週間後。心の傷を負い、休養していた鼎は復帰していた。



本部・司令室――


「鼎、メンタルは大丈夫なのか?まだ復帰出来ない隊員もいるから深刻なんだけど…。お前は早い段階からカウンセリング受けていたもんね」
「そうでもしなければ、室長のワンマンになってしまうだろうが」


鼎の雰囲気ちょっと変わった?やっぱりあの事件を機に、彼女は何かが変わったようだ…。


「鼎、今日は晴斗の高校に彩音・桐谷と一緒に行って欲しいんだ。
任務ってほどでもないけど、晴斗に用があるわけよ。いや…『晴斗の高校』に用がある」
「晴斗の高校だと?」

宇崎はある資料とタブレットを渡した。
「その紙の資料は晴斗に渡して欲しいんだ。高校用に多めに作ってあるけどな。
タブレットは鼎が持っていればいい。それ、手を翳すと空中に画面上のデータが表示されるようになってるから」



某都立高校。晴斗は遅れを取り戻すべく、猛勉強に励んでいる。
そんな中、休み時間に校内放送が流れた。


「2年A組 暁晴斗くん、至急校長室へ来て下さい」


この放送を聞いた晴斗の級友はからかう。
「暁、お前何かやらかしただろ」
「してねーよ」

晴斗は何事かといぶかしげに思いながら、校長室へ。



校長室。晴斗は中へ入ると、そこには白い詰襟の制服姿の大人が3人いた。2人は女性・ひとりは男性。女性のひとりは制服のデザインが若干違う上に、白い仮面を着けている。
見覚えのある制服だ。なんでゼルフェノアが学校にいるんだよ!?

鼎さんと彩音さんに桐谷さんじゃないか!?


「…晴斗、久しぶりだな」
鼎はいつも通りの冷淡な話し方をしてるが、声は優しい。

「か…鼎さん!?なんで学校に?」
「まぁまぁ。ここは座って話しましょうというわけね。すいません、場所変えて貰っていいですか」

そう言ったのは彩音。



場所を変えて応接間。鼎と晴斗は椅子に腰掛け、彩音と桐谷は鼎の側に立っている。テーブルの上には資料。


「…で、用件とはナンデスカ…」
晴斗、なぜかカタコト。
「晴斗、お前…ゼルフェノアに正式に入りたいと聞いたのだが」

「そ、そのつもりで勉強してるよ」


鼎はタブレットを操作、画面に手を翳すと空中に資料が示された。

「これを見ろ。晴斗は既にゼルフェノアの契約書にサインしている。晴斗はこの時点で隊員になっているんだ。
…試験を受ける必要はないんだよ。契約は破棄されてないからそのままだ」
「…え?ええぇ!?」

「その資料をよーく見てみろ。書いてあるはずだ、契約書のことが」
晴斗は資料をガン見。確かにゼルフェノアの契約書にはちゃんと書いてある…。


「…と、いうわけで一時隊員はそのままだ」

晴斗はきょとんとしている。
「鼎さん、それだけのためにわざわざ学校に来たの!?」
「…そうだが?あと、高校用にゼルフェノアの資料を届けに来た」


就職用の資料…なのかな…?


晴斗は恐る恐る聞いてみた。

「鼎さん…なんか雰囲気変わった?気のせいかな…」
「司令補佐は責任を伴うからな。
室長不在の時は私が指揮をとらねばならない…。まだ指揮は不慣れだが」


「鼎、そろそろ時間だよ」
彩音が声を掛けてきた。鼎は席を立つ。
「では、私達は本部に戻るよ。晴斗、お前に出動要請が来たら来い。
組織は『暁晴斗』を必要としている」


3人は応接間を後にした。


ひとり、残された晴斗はまだ信じられなかった。
契約してるから一時隊員はそのままだと!?試験を受ける必要がない!?



廊下ではゼルフェノア隊員と司令補佐が来ていることを知った学生達でちょっとした人だかりに。


「あれが司令補佐?本当に仮面着けてる…」
「司令補佐カッコいい〜」
「ゼルフェノア隊員初めて見た」


鼎は周りを気にせずにつかつかと歩いている。

「彩音、桐谷。早いところ戻ろうか」
「鼎やっぱり雰囲気変わったよね…」



本部・司令室。


「おかえり〜。晴斗、どうだった?」
宇崎、ニコニコ。

「私が司令補佐になった事実をまだ受け入れられないような反応だったぞ。契約書のことも聞いて驚いてたし」
「あれは高校生にはちと難しいだろうよ…」



某都立高校・教室。


「暁、ゼルフェノアに入るのか!?」
「入るのってか…入ってたんだよ…。それで呼び出されたの。契約のことで」

「暁は例の司令補佐と顔見知りなんだっけ!?」
「お前なにワクワクしてんだよ…」
晴斗、級友に呆れ気味。


「だってあの司令補佐、話題の『仮面の司令補佐』じゃん。俺も見たけどカッケーな」


カッケーって、なんなんだよ…。鼎さんの仮面は飾りじゃないんだが…。こいつに言っても無駄か…。



本部・司令室。

「鼎、補佐業務慣れてきたんじゃない?」
「まあな。でもまだまだだよ。室長レベルには程遠い」

「別に俺を目指さなくてもいいんだぞ?司令は小田原司令もいるし、北川元司令もいただろうよ。
ゼノクの司令ポジションは西澤室長だね」


「北川さんはまた来ることがあるのか?」
「あるよ。俺が不在の時に来るように伝えてあるから。鼎はまだ指揮に不慣れだから、頼もしい先輩が必要でしょ?」


バックアップは強靭にしてあるって、本当のようだな…。


「…あ、鼎。明後日俺、出張だから北川に来るように言っておいたぞ〜」
「明後日!?」

「そんなに大袈裟にならんでもいいだろうに。鼎にしては珍しいな…そのリアクション…」
「そ…そうか?」


滅多にオーバーリアクションしない鼎がオーバーリアクションしてるよ…。
北川が来るのが嬉しいのかな…。





番外編 (下)へ続く。