その2日後――

司令の宇崎は出張へ。司令室は鼎ひとりに。がらんとした司令室。見慣れた風景なのに。


北川さんは本当に来るのか…?


彼女は不安が入り交じっていた。司令補佐になって以降、司令室にひとりなんて経験がないのもある。



しばらくして―


「紀柳院、ごめんごめん。遅くなってしまったよ。待たせてごめんね」
北川が司令室に入ってきた。めちゃくちゃ申し訳なさそうにしてる。

「紀柳院、サポートは俺がするからリラックスしてさ。ちょっと緊張してるみたいだね。
宇崎にも言われたから。『鼎のサポートしっかりやれよ』ってな」
「あ、ありがとうございます」
鼎はまだ戸惑い気味。

「俺は司令じゃないから、まぁ…元司令だけども助っ人要員だよ?そう緊張すんな」


鼎が慕う北川が来たことで、緊張がほぐれたようだった。



某都立高校。


「暁〜。仮面の司令補佐ってさ〜、どんな人なの〜?」
晴斗の級友・青葉が馴れ馴れしく聞いてる。

「見た目は冷たそうに見えるじゃん、本当は優しい人だよ。キレるとめちゃくちゃ怖いけどさ…」
「そ、そうなの…?」

「だけど仲間思いで、たまに無茶しちゃうんだけどね…」



いつもと違う司令室に時任がやってきた。


「いちか、復帰出来たのか」


時任はまだ事件の尾を引いているのか、いつもの元気がない。

「うん、なんとかね…。室長、今日はいないんだ…」
「出張だと言っていた。だからピンチヒッターで北川さんが来てる」

「時任いちかさんだね。よろしく」
時任と北川は直に顔を合わせるのが初めて。
「よよよ、よろしくお願いしますー!」
時任、かなりパニクっている様子。北川は穏やかに落ち着かせている。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だから。俺は宇崎不在時のピンチヒッターだからさ。紀柳院のサポートでいるだけだから。
紀柳院はまだ指揮が不慣れだから、サポートしてるんだよ」

「ほへー」
時任、北川の話を聞いていつもの調子に戻った。



一段落ついた御堂も司令室へ。


「うおっ!なんか人多いなっ!いちか復帰出来たのか」
「御堂さん、なんか久しぶりっす」
時任は「チィーッス」という手振りを見せた。

「お前は相変わらずだな…」
御堂、だるそう。


「和希、北川さんがいるから指揮は大丈夫だよ」
「そうか。じゃ、俺は戻るよ。何かあったら俺を呼べよ」


御堂はぶっきらぼうに言うと司令室を出た。
鼎にはピンチヒッターの北川がいるから大丈夫だが…。メンタル面に関しては俺達かカウンセラーじゃないと無理なんじゃないか?

鼎はああ見えて繊細だ。繊細なんだよ。
表では冷淡で怖いイメージがあるが、あいつは仲間思いで不器用で…。



その日は何も起こらなかった。晴斗は放課後、久しぶりに本部へ行ってみた。


「鼎さーん!」
晴斗の声に鼎が反応した。

「晴斗…?本部に来るのは久しぶりじゃないか?」
「本部は数ヶ月ぶりだよ。何もないけど…行きたかったんだ」

「晴斗、一昨日はすまなかった」
「謝らなくてもいいよ。俺…必要なんでしょ?ゼルフェノアに。だからいつでも呼んでね。…あれ?室長は?」
「今日は出張だよ。だから北川さんがピンチヒッターで来てる」


「バックアップが強化されてる…」
晴斗は呟いた。



晴斗はゼルフェノアの体制が変わりつつあると、なんとなく感じていた。
鼎さんが司令補佐になったのも影響してるのかなぁ…。


鼎さんの雰囲気が変わったのは、あの本部占拠事件のせいらしいけど…。
聞いた情報によれば、鼎さんは圧で武装集団をけしかけたとか。肝が据わってる…。


鼎さんを久しぶりに見た時、なんか「補佐」って感じには見えなかった。
制服のデザインが若干変わったせいか、司令感がすごい。

立場が変わったのもあるのかなぁ…。なんだろう、この感じは…。