本部・解析班――

「なんで私達がネットを監視しないとならないわけ?まあまあ平和になったからってさー。なんかハッキングみたいなことしてるよ…」
解析班のチーフ・朝倉がギャーギャー言っている。神(じん)はPCをいじりながら淡々と呟いた。

「紀柳院が司令補佐になったことで、変な輩が出てきているからだろ。正体を探っている輩がいる。下手したら紀柳院が何されるかわからないんだぞ」
「それはわかっているけどさ…」

朝倉、かなり複雑そう。



ゼノク医療チームの構成は4人。加賀屋敷・志摩・嵯峨野・姫島。
この4人は蔦沼長官にスカウトされたり、拾われたりして今に至る。

長官しかこの4人の過去を知らないらしい。



ゼノク・司令室。加賀屋敷は蔦沼に呼ばれていた。
西澤と南は席を外している。


「加賀屋敷、ゼルフェノアに来てだいぶ経つけど…どうだい?」
「…何を今更……」
加賀屋敷、嫌そうな反応。


「都筑…いや、紀柳院の治療をしてくれたことは感謝しているよ。あれは君じゃないと治療出来ない」

「だからといって裏の人間をわざわざスカウトしますか!?…グレーの範疇で自由に治療出来るのは感謝していますが」
「ゼノク医療チームはその特殊性ゆえ、謎のままにしているから安心しなさい」



加賀屋敷は蔦沼に拾われる以前は裏の人間・闇医者だった。
どういうわけか、蔦沼を治療したことをきっかけに彼に拾われ→ゼルフェノア所属医療チームのチーフに至る。


「スカウトする人材おかしいでしょうよ。志摩・嵯峨野・姫島もわけありというか…」
「元闇医者が何言ってんだ。せっかく快適な場所を提供してるのに。取り引きしたでしょう?」

「そりゃあれだけの金を積まれたらノーとは言えない…。俺、あの時買収されたのか?」
「まぁ、そうとも言うね。ようやく気づいた?」


この長官、こっちの心理を最初からわかっていたのか…。読めない男だ。
組織の闇を垣間見たな。お前が言うなすぎるけど。

あの時蔦沼は「手術代とは別に」100億出して交渉してきたんだっけ。手術代はこちらから提示した3億だったが。
「ゼルフェノアに来ないか?」…と。裏の人間をスカウトする時点で色々おかしい。


俺達4人はまんまと蔦沼長官にハメられたということになる。



恭平の自宅。やっぱり加賀屋敷について調べてみるも、詳細は出てこない。最小限の情報のみ。
北川に関する情報は出てきたが。

「ゼルフェノア初代司令…北川宗次。…やっぱりあの事件当日の司令はこの人か…。
…何やってんだろう、俺は…。こんなことしても意味ないのに」


それに紀柳院本人にああ言われたら…。彼女は明らかに拒否反応を示していた。

これ以上、彼女について探らない方が良さそうな気がする。



本部・解析班。


「解析班ってネット監視がメインじゃないんだけど…。どう思うよ、矢神」

「チーフ、仕方がないですよ〜。そこそこ平和になったおかげで、解析班は一気に暇になりましたからね〜」
「あんたは呑気よね。司令補佐は大変なのにさ」


神は2人の会話にしれっと入りこむ。

「紀柳院が司令補佐になって表に出たことで、変な輩が出てきたのは危惧しているけどな」
「そこなのよね〜。『仮面の司令補佐』を持て囃すのはやめて欲しいものだわ。彼女もなりたくてあの姿になったわけじゃないのに…」

朝倉もこれが気がかりだったらしい。



「…きりゅさん、もう大丈夫なの?」
「…ああ」
「無理しないでね。プレッシャーとかすごいと思うけど、私達をもっと頼ってもいいんだよ。
きりゅさんはひとりじゃないから」

「いちか…ありがとね」



恭平は加賀屋敷について調べていると、なぜか「蔦沼栄治」の名をちらほらと見かけるようになる。


蔦沼…?ゼルフェノアのトップ、長官じゃなかったか!?

通称「義手の長官」。加賀屋敷と蔦沼は何かしら関係しているのだろうか…。



恭平は知らず知らずのうちに、組織の闇…厳密には蔦沼の闇の部分を僅かながらに垣間見ることになる。

「ゼノク医療チームのメンバー、聞いたことない名前ばかりだ…」
それもそのはず。4人ともわけあり、もしくは闇医者だったから表の人間ではない。残りの3人を調べても詳細は出てこなかった。


これは何を示しているんだろうか…。



ゼノク。西澤はいつもの調子で蔦沼と話してる。


「長官、加賀屋敷といつ知り合ったんですか?なんかいつの間にか拾ってきましたよね。志摩・嵯峨野・姫島も」
「これは彼らとの取り引きに関係してるから言えないんだ。ごめんね西澤」


言えないって、どういうこと?取り引き?
何かしら4人と契約を交わしたのか?長官は。じゃないとあんな人材なんて集められない。

一体どこから集めてきたんだろうか…。
4人はそれぞれはぐれ者だったということしかわからないが、怪人由来の治療に関しては飛び抜けて優秀。



西澤、少しもやもや。

ゼノク医療チームの過去は蔦沼しかこの事実を知らない。上層部でも知らない闇がすぐ側にある。