「――なんか音、さっきよりも激しくなってる。あやねえ、戦局だんだん変わってきてるよ!!うちが優勢になってる!いつの間に!?」

時任は組織の端末で戦況を見ながら意外と冷静になってる。簡易補給所は激戦地からそこそこ離れているが、明らかに音が激しくなっている。


双眼鏡でスカイツリーの方向を見てるのは桐谷。

「あの光、暁くんのブレードの発動ですかね?光の筋が見えるんですよ」
「きりやん、今すぐ車出して!もしかしたらあっち、怪人わらわらいるかも!
だっておかしくない?急に出なくなったんだよ?絶対何かある!あやねえも行こうよ!」

「いちか、わかったよ。御堂さん達もあっちにいるみたいだけど…、月島さん達からバトンタッチしたのはわかるんだ。通信、混線してるみたい…。ノイズがひどい」
「きりやん早く行こ!」


時任は急かすがそこに現れたのは上総(かずさ)。

「二階堂があっちにいるみたいなんだ。俺も連れてってくれ」
「イチ、早く乗って!きりやん早く車出して!」

上総も現場へ向かう流れに。



激戦地となってるスカイツリー周辺。鳶旺(えんおう)は突如、地面へ降りると翼のような赤黒い枝分かれした棘を広範囲に展開。

「こんな使い方も出来るんだよ?ガキが」
棘は一斉に周辺にいる隊員達に攻撃。晴斗と二階堂はなんとか食い止めようとするが、末端の隊員までは防げず。


「鼎!逃げろ!!」
御堂は棘の脅威から鼎を庇う。鼎は満身創痍の身体でなんとか避けるが、予想外のことが起きた。

鼎の側にいた北川が鼎と御堂を庇い、棘の餌食になったのだ。
北川は棘に貫通されたらしく、出血。辺りは血に染まる。


「北川…?北川さん!?」
鼎は北川の返り血を浴びていた。白いベネチアンマスクと制服の一部が血に染まる。

「俺…何やってんだろうな…。体が勝手に動いちまったよ。紀柳院、お前には御堂がいる。俺がいなくても大丈夫だろ」
「何言ってんだよ!勝手に死ぬ気か!?」

鼎は内心パニックになりかけている。
見たところ、北川はかなりのダメージを受けている。棘の威力は以前よりも上がっているようだ。あれだけ出血してるとなると早く助けないとマズイ。


晴斗は2つのブレードで攻勢に出た。二階堂がアシストしているおかげもある。


二階堂は右腕の戦闘兼用義手で雷撃を次々浴びせている。これは蔦沼から聞いた情報で、雷撃が棘に有効だとわかったから。
晴斗はブレードに二階堂の雷撃を帯電させた。そして一気に畳み掛ける。

「なかなかしぶといな…お前」
「当たり前だろうが!!」


晴斗は鳶旺に対し、キレていた。



時任達は激戦地に到着。そこにはおぞましい光景が広がっていた。
鳶旺の広範囲攻撃の餌食にされた人々と怪人。ネオメギドはこの激戦地に集結した形に。


桐谷はロケット砲を構える。
「ネオメギドは私と上総くんに任せなさい。彩音さんは救護に当たって下さい。時任さんは鳶旺の動きをワイヤーで止めるのです」
「きりやんわかった!」


時任は手首のワイヤーを展開させながら鳶旺に突っ込む。無謀だが、止めるにはこうするしかない。

「暁くん!ニカさん!動きをなんとか止めてみる!」
「時任さん、突っ込む気!?」
「んなわけないでしょ」


時任は小柄なのを活かして鳶旺の死角に入る。そして両手首のワイヤーを使い、棘の動きを止めることに成功。

「やっとあたしの見せ場来たー。暁くん!ワイヤー切られたらヤバいんで気をつけて」

時任は一時的に鳶旺の動きを止めるのがやっとだったらしい。棘を止めただけでもお手柄。



鼎と御堂は負傷した北川を寝かせた。なんとか出血を止めようとするも、うまくいかない。

「北川さん…あなたに私は助けられた。だからと言ってなんで庇う!?死ぬなよ…!」
彩音は北川の負傷に気づき、処置をする。

「ギリギリ間に合った…。鼎、御堂さん。今止血剤を投与したから。北川さんは気絶してるだけだから大丈夫。救護隊も来るから」
「北川さんは助かるのか…?」

鼎は泣きそうな声。

「助かるから、泣かないで。鼎、晴斗くんのところに行ったげて」
「今の私には武器がないが…」


御堂は戸惑う鼎にぶっきらぼうに銃を渡した。

「これを使え。俺の愛用の銃だ。対怪人用じゃねぇ、カスタム銃だ。お前なら難なく使えるだろ。鼎がゼルフェノアに入った当初、教えただろうが。カスタム銃の使い方」
「…覚えている」
鼎はいとおしそうに御堂の銃を眺める。

「銃なら身体の負荷は肉弾戦よりはいくらか軽減されるからな。
なんで俺がカスタム銃にこだわっていたのか、使ってみればわかる。鼎からしたらいきなり実戦になるのか、その銃は」
「和希…行ってくる」


鼎は御堂の銃を手に鳶旺に挑むことになる。



晴斗はしばらく優勢だったが、時任のワイヤーが切れそうになっているようで鳶旺はかなりイライラしているように見えた。

晴斗は何を思ったか、2つのブレードを手放すと鳶旺と殴り合いに。2つのブレードは共鳴しているため、独りでに動いている。


そこに鼎が発砲。弾は鳶旺に命中。御堂のカスタム銃は見かけによらず威力も高く、反動も大きいが「確実に」怪人に当たるように設計されている。

対怪人用ではないが、御堂は拳銃を怪人用に独自に改造していた。
鼎は組織に入った当初から銃の手解きを御堂から受けてるため、銃火器はある程度は使える。


鼎は手応えを感じていた。

「鼎さん!戦えるの!?大丈夫なの!?」
「私のわがままを和希に聞いて貰っただけだよ」

晴斗は鼎の銃を見た。あれは御堂さんのカスタム銃!?


「晴斗、離れろ。撃てない。お前は使い慣れてるブレードを使え!そいつに肉弾戦は自殺行為だぞ!!」
「…邪魔者が入ったか…」

鳶旺はまさかの邪魔者が鼎だと知り、攻撃しようとするが時任のワイヤーはギリギリと棘を締め付ける。


「特殊なワイヤーにしといて正解だったぜい。あれ、かなり頑丈だからなかなか切れないよ〜。かかったな、ラスボス。暴れれば暴れるほど締め付けるんだよ、それ」
時任、どや顔。


桐谷はロケット砲で周辺の怪人を一掃。
「ゼルフェノアを舐められたら困りますよ。ネオメギドって、ロケット砲に弱いんですね。意外です」

上級メギド・ネオメギドの思わぬ弱点が露に。ここで久留米、再び参戦。


「桐谷、私達でネオメギド一掃だ♪」
「久留米さん、やはり来ましたか」
「爆破なら任せな。被害広げずにやるしかないっしょ。桐谷も得意だよね」

「私は大型銃火器専門ですから当然です」



本部。宇崎は負傷した長官を気にしながら戦況を見てる。
蔦沼の両腕の義手は最大出力を使ったせいで、オーバーヒートして使い物にならなくなっていた。両腕の義手は外され、蔦沼は本部隣接の病院にいる。

側には秘書兼SPの南が控えてる。


「長官…義手、やっぱり修理不可能だって。最大出力でオーバーヒートさせますか!?あれ、使い方間違っていたら死んでますからね!!」
あの冷静沈着な南がすごい剣幕で怒ってる。
「南…悪かった。反省するよ」


「長官、この戦い決着着くと思いますか?」
宇崎はなんとなくリモートで蔦沼に聞いた。

「暁と紀柳院が現場にいるが、紀柳院が心配だな…。北川も負傷しているし、二階堂と時任がアシストしているからいい流れになってきてるね」



鼎は御堂がなぜカスタム銃を使うことにこだわるのか理解した。反動はすごいが、銃で殴れるようにも出来てるためカスタム銃は見かけによらず重め。

晴斗は鼎を気づかった。
「鼎さん、無理しないで…」
「無理なんてしてない」


無理してるようにしか見えないのだが…。


御堂はもう1つのカスタム銃で鳶旺に攻撃。彼のカスタム銃は2丁ある。

北川は救護隊により、病院に運ばれたようだった。



晴斗と鼎はそれぞれ連携しながら、二階堂は2人をアシストしながら鳶旺に攻撃を畳み掛ける。
二階堂のスペアの義手は性能が上がっていたらしく、彼女の身体に負荷はほとんどかかっていなかった。


狭山と霧人もネオメギド殲滅にかかるが、桐谷と久留米には敵わない。

「オラオラ爆破じゃーい」
久留米はスイッチが入ってしまったらしい。
「久留米さん…あなた怖いですよ」

あのマイペースを崩さない桐谷が、スイッチが入った久留米に対しては少し引いたらしい。
「桐谷ごめん。私悪役顔になってしまったわ」
「ゲス顔で敵を倒しますかって話ですよ」



本部。宇崎は鳶旺の弱点を探していた。棘を封じられた鳶旺は思うように攻撃出来てないようだが、まだ致命的なダメージを与えられていない。

意外と御堂のカスタム銃が効いてるようにも見えるが、あれは彼が独自に改造した殺傷力の高いもの。
鼎は難なく使えているが、並みの隊員なら使えない代物。


2つのブレードが共鳴したままということは、やはり恒暁(こうぎょう)と鷹稜(たかかど)が鳶旺撃破に関係している…?

鼎が側に来たことで、2つのブレードの光は増していた。
共鳴はさらに高鳴っている。


宇崎は晴斗と鼎の戦闘データを見た。なんなんだこの数値は!?
ブレード共鳴の恩恵か、身体能力が一時的だが格段に上がっている!?

鼎の銃の腕は確かだが、あんだけ反動の強いものを連続で使用すると疲弊するはずだが…。それに戦闘制限時間、既に約10分経っている。彼女はそれ以前、消耗が激しかったはずなのに…。微妙に回復しているように見える。


晴斗は2つのブレードの攻撃力を一気に上げることにする。





第52話(下)へ続く。